法改正

【差し押さえの場合の時効はどう変わった?】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(148条/149条)

差し押さえ 時効 変わった

qimono / Pixabay

今回の民法の大改正では、時効の完成が妨げられる時(延長やリセットされるとき)について、名前が完成猶予と更新と変更されました。また、各所に散らばっていた文言がまとめられ、より詳しくまとめられることになりました。

完成猶予(延長)と更新(リセット)については、147条の解説にて、詳しく説明しましたので、先にそちらをお読みください。

この記事では、差し押さえの場合での時効の完成猶予と更新について解説します。

 

 

民法148条の条文

改正民法の条文は次のようになります。

 

【改正後民法】

(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)

第148条

1 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない

一 強制執行

二 担保権の実行

三 民事執行法第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売

四 民事執行法第196条に規定する財産開示手続

2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。

 

 

実は、改正後の148条と改正前の148条は関係がありません。新しい148条では、147条と154条を合わせて、差し押さえをする場合の時効について明記されました。

また、差押えをしない場合の強制執行等、今まで曖昧であった疑問を解決するように、作られました。改正前の民法を見てみます。

 

【改正前民法】

第147条

 時効は、次に掲げる事由によって中断する。

一 請求

二 差押え、仮差押え又は仮処分

三 承認

【改正前民法】

第154条

 差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない

 

改正前147条と154条にある、仮差押え、仮処分は149条に独立して明記されるように改正されました。改正前では、差押えとしか明記されていないことがわかりますね。それでは148条のポイントを解説していきます。

 

148条のポイントは?

差押えというのは、債権を得る権利をもつ債権者の利益を守るために、債務者が財産を勝手に処分しないように、処分の禁止を行うことを言います。

そのため、差し押さえをした後は基本的に強制執行の前に行われます。

このようなことをするのは、債務者が債務の執行を逃れようと、他人に財産を渡したり、財産を隠してしまったりする恐れがあるからです。こうした事態を防ぐために、差押えをする必要があります。

 

148条では、差し押さえの後や先に行う手続きで4つの条文に分解しました。それぞれ、①強制執行、②担保権の実行、③形式的競売、④財産開示の申立てです。

 

お金を貸した人(債権者)の申立てによって,裁判所がお金を返済しない人(債務者)の財産を差し押えてお金に換え(換価),債権者に分配するなどして,債権者に債権を回収させる手続きを民事執行手続と言います。

148条はこの民事執行手続きに対して、時効の完成の猶予と更新を詳しく記載しています。

この民事執行手続きのどの場合でも、申し立てをすれば、時効が延長され、例えば、強制執行が完了するなどすれば、時効が更新(リセット)されます。

もし途中で、申し立てを取り下げたりした場合は、そこから6カ月時効が延長されます。

 

強制執行手続と担保権の実行とは

強制執行手続とは,勝訴判決(裁判で争いの上結果がでた)を得たり,相手方との間で裁判上の和解が成立したにもかかわらず,相手方がお金を支払ってくれなかったり,建物等の明渡しをしてくれなかったりする場合に,債権者の申立てに基づいて,相手方(債務者)に対する請求権を,裁判所が強制的に実現する手続です。

 

担保権の実行手続

担保権の実行手続とは、債権者が債務者の財産について抵当権などの担保権を有しているとき(いわゆる土地などを担保にお金を借りている場合)に、これを実行して当該財産から満足を得る手続です。この場合,判決などの債務名義は不要であり,担保権が登記されている登記簿謄本などが提出されれば,裁判所が手続を開始することとなります。

 

ちなみに、担保権の実行手続も,強制執行手続と比較すると,債務名義を必要とするか否かの違いはありますが,申立て後の手続はほぼ同じです。

 

また、③の形式的競売は、担保となっている土地などを売却する際に競売をする場合のことを指しており、④の財産開示の申し立てとは、差押えからの強制執行をする際に、どのような財産を差し押さえれば良いのかを判断するために行います。

 

まとめると以下のようになります。

 

強制執行

支払いが行われなかった債務を取り返すため、裁判所を通じて強制的に実現する方法

担保権の実行

契約の際に担保権がある場合、債務を取り戻す際に担保から財産を取り戻す方法

形式的競売

担保権として手に入れた土地などを売却するために、競売にかける手続き

財産開示の申立て

差押えや強制執行を行うために、相手の財産を知るために裁判所に申立てをする手続き

 

上のような手続きがあった場合には、時効の完成は延長され、手続きが完了し実際に行われれば、時効がリセットされます。また、途中で取り下げた場合には、そこから6カ月の延長があります。

 

民法149条の条文

次に民法149条では、仮差押えと仮処分について、明記されています。

 

第149条

 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

 一 仮差押え

 二 仮処分

 

改正前の民法では、147条と154条に差押えと一緒に併記されていましたが、独立した条文となりました。

 

この場合では仮差押えや仮処分があった場合には、これらが終わってから6カ月間時効が延長されます。先ほどは、終わった段階でリセットされましたが、今回は延長されるだけです。

 

それでは、仮差押えと仮処分について解説していきます。

 

仮差押えと仮処分とは

民事裁判の手続きには、おおよそ3つの段階があると言われています。それは「民事保全」「民事訴訟」「民事執行」です。

それぞれ、対応する法律が違うので注意が必要です。

 

「民事保全法」「民事訴訟法」「民事執行法」

 

「民事訴訟」というのはまさに、裁判上の争いのことです。例えば、お金を貸したのに帰ってこない、裁判で訴えようというような場合です。その結果、お金を返しなさいよ、といった判決がでるといった流れを指します。

 

「民事執行」というのは、148条であるように、強制執行や担保権の実行など、実際に権利を保障することを指します。例えば、先ほど判決でお金を返しなさいよ(権利の確定)と言いましたが、返さずに逃げてしまうこともあります。その際に強制的に取り戻す手立てなどが強制執行(権利の実行)です。私たちは無理矢理、お金を奪うことができない(執行権がない)ため、代理で裁判所が行ってくれるということですね。

 

「民事保全」というのが、今回の仮差押えや仮処分などになります。これは、民事執行や民事訴訟の前段階に行います。民事訴訟した際に、判決でこれは負けてしまうから先に所得を隠してしまったり、上げてしまったりすることがあるため、「民事執行」や「民事訴訟」の前段階として行います。つまり、債権者が債権を回収できなくなることを防ぐために行われます。

 

民事保全

権利を保全する(仮差押えと仮処分など)

民事訴訟

権利を確定する(民事裁判の判決)

民事執行

権利を実行する(強制執行や担保権の実行など)

仮差押えと差押えとの違いは、仮差押えは、民事保全になりますが、差押えは民事執行の一部になります。そのため、効力としてはほぼ同じですが、開始するタイミングが、異なります。また、差押えは債務名義が必要ですが、仮差押えについては必要ありません。

この辺りは、民事執行手続きの話になり、大きく脱線してしまうため、簡単に言えば、仮差押えを行ってから裁判を行うといった流れだと思っておけば、大きく間違ってはいません。

 

裁判をする前に土地を仮差押えしてから、裁判に臨むそんなイメージでしょう。

また、仮処分も同様に、例えば、解雇トラブルで、民事訴訟を起こす前段階として、賃金の仮払いを命じる仮処分を申し立てるといった場合が考えられます。

 

このような、仮差押えと仮処分の申立てをし、それが実行されてから6カ月間は時効が延長されるだけで、リセットされるわけではないのは、その後裁判が行われることが前提としてあるためになります。

(裁判が行われると民法147条1項により、同じように裁判が終わるまで延長され、裁判が確定すると、リセットされます)

 

民法147条

裁判上の手続き

(民事訴訟)

手続き開始から終了まで完成猶予

権利が確定すると更新

途中で取り下げると

そこから6ヶ月の完成猶予

民法148条

強制執行等

(民事執行)

手続き開始から終了まで完成猶予

執行すると更新

途中で取り下げると

そこから6ヶ月の完成猶予

民法149条

仮差押えと仮処分

(民事保全)

終了時から6カ月間の完成猶予

 

 

 

まとめ

民事裁判の手続きには、権利を確定する民事訴訟だけではなく、その権利を執行するため民事執行があり、この権利を執行する前に財産を売却されてはいけないので、裁判が行われる前に民事保全という3つの段階で権利を守ろうとしています。

 

 

そして、これらそれぞれに、時効を延長、リセットがあり、民事保全である仮差押えと仮処分は、実行してから6ヶ月間時効が延長され(民法149条)、裁判が行われれば、時効が栽培が終わるまで延長し、裁判で権利が確定するとリセットされます(民法147条)、また、民事執行を行う際にも裁判をする場合と同様に、執行手続きを申立てすると、時効が延長され、実行されると時効がリセットされます。

 





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