法改正

【新設・代償請求権】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第422条の2)

代償請求権 民法改正 2020 解説

 

以前にも説明した債務の履行が不能の場合において、債権者は本来の給付を受けることはできません。しかし、債務者が債務不履行になったのと同じ理由で、なんらかの利益を得ていたらどうでしょうか。例えば、乗っていた船が沈没し、債務履行するはずであった宝石が海の底に、しかし船が沈没した損害賠償で債務者が利益を受けていた場合はどうなるのでしょうか。

 

今回は、新設された、代償請求権について解説します。

422条の2の条文は

第422条の2

 債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度において、債務者に対し、その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる

422条の2は、代償請求権について明記しています。

代償請求権とは、債務の履行が不能になったのと同じ原因で、債務者が代償といえる権利や利益を得たときに、債権者が、自分が受けた損害の限度で、権利の移転・利益の償還を請求することができるという権利です。

 

非常に簡単に言えば、売る契約をしていた建物が地震で燃えました。燃えたので債務の履行は不能です。しかし、火災保険に加入しており、損害分の補填がされました。この場合に、火災保険で得た利益を、債権者が請求できるということです。

 

この考えは、民法改正前から、法解釈によって、認められていましたが、この度の改正で追加されることになりました。

 

代償請求権のポイント

代償請求権に出てくる履行不能とは、履行のしようがないことであり、履行の請求ができない状態と解説しました。(412条の2)その際に、履行不能には、①物理的不能、②社会的不能、③法律的不能の3つのパターンがありました。

また、履行不能の際に、帰責事由が有れば損害賠償請求ができました(415条)

 

代償請求権は改正前において、履行不能の場合で、帰責事由がない時に救済措置的な使われ方をしていました。

確かに、帰責事由が有れば損害賠償請求(415条)を使用すれば良いので、わざわざ代償請求権を持ち出すまでもありません。

 

 

例えば、上の図のように、宝石商と買う人がいたとします。買った人は、宝石の購入を決め代金を支払いました。しかし、その宝石を売る人は、輸送中に船の事故により、船が沈没してしまい、船と宝石は海の底に消えてしまったとします。

 

この時に、宝石に保険をかけていたため、宝石の保険料が入りましたが、もちろん船の事故による、債務者(宝石を売る人)に責任はありません。買う人は、同じ宝石を用意しろとは言えない(412条の2)ので、損害を請求するしかありません。しかし、本人の責任には帰することはできないので、損害賠償請求もできません。

 

この時に、宝石にかけていた保険料を変わりに、宝石を買うときの代金まで受け取れるのが代償請求権になります。

つまり、帰責事由が無い場合において、債権者を守る立場から、民法422条、民法536条2項の趣旨から、代償請求権を認めるという判決がなされていました。

 

第422条

債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。

 

第536条2項

債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

履行不能には、他にも地震によって契約済みであった家が燃えてしまった、台風で壊れてしまった、契約済みの効果なものが家事で焼けてしまったなど様々な履行不能の事例があります。

このような履行不能は、帰責事由がない場合では、代償請求権が認められていました。

 

 

新民法は帰責事由が関係ない?

旧民法では条文はありませんでしたが、判例で、帰責事由がない場合に代償請求権を認められていました。しかし、改正され新設された422条の2では、帰責事由に関する記述がありません。

 

代償請求権には、債務者の財産管理干渉となる側面があることから、帰責事由がある場合は損害賠償請求をし、帰責事由がない場合は債権者を守る立場から使われていました。しかし、今回、帰責事由を必要とするか否かが明文化されなかったことによって、帰責事由がある場合においても、422条の2が使えるかどうかは判例を待つしかなさそうです。

 

実際に帰責事由がある場合でも、債務者があまりお金を持っていないときや、うまくお金を隠されたりすると債権者が困ってしまいます。このような場合に債権者の保護という観点から、代償請求権が帰責事由があっても認められる可能性があります。

 

しかし、現在ではまだどちらの判例がでるのかを待つしかなさそうです。

 

まとめ

債務の履行が不能である場合、帰責事由がある時は損害賠償請求をしていました。しかし、明文化をされていなかったものの、帰責事由がない時には代償請求権として、例えば、家が燃えた場合の火災保険などを、代わり受け取ることができました。

この代償請求権が独立して、422条の2に明文化されることになりました。

現在、代償請求権が帰責事由がある時にも使用できると読めますが、実際にそうであるかは、判例を待つ必要がありそうです。

 

 





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