コラム

ブラック企業はなぜ生まれるのか~経済学から今を生きるヒントを考える~

ブラック企業という言葉があります。これから就活をする人、今いる企業がブラック企業ではないかと思っている人、転職をしようとしている人にとっては重大な問題です。もちろんブラック企業は働いている労働者だけではなく、全体の問題なのですが、なぜブラック企業が生まれるのか、何が問題なのかと言われると返答は難しいです。

 

今回は、経済学という学問からブラック企業を説明し、私たちがこれからの社会を生きるヒントになるよう解説していきたいと思います。

 

 

経済学とは?

経済学という言葉を聞くと、途端に「難しそうだな」「金持ちになるための学問だろ」と思いますが、全くそうではありません。経済学というのは、「資源の最適配分」を考える学問です。資源というのは色々ありますが、例えば石油にしても天然ガスにしてもその他の資源についても、有限です。この有限な資源をどのように使えばみんなの暮らしが良くなるのかということを考える学問です。

実は、経済学という学問の思想が企業や政治に大きな力を持っています。もちろん私たちの生活に根ざした考えもあるのですが、経済の思想に賛成・反対を問わず学んでおくことによって、私たちの生き方を考えるのに有効なのは間違いありません。

 

それでは、ブラック企業がなぜ生まれるのかを解説していきましょう。

 

ブラック企業とは

ブラック企業は今野春貴さんによると「新興産業において、若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業」1と定義しています。

従来日本では、終身雇用制度によって、1つの企業に定年退職まで長く勤めることが当たり前でした。労働者の立場から見れば、ブラック企業というのは、終身雇用制と違い将来の安定を示さず、過重労働で心身ともに追い込んでくる害悪でしかありません。

 

しかし、ブラック企業が成り立つということは、なにかしら理由があるということです。なぜ成り立つのかを見てみます。

 

ブラック企業が生まれる理由

企業というのは非常に簡単に言うならば、利益を追い求める存在です。
利益というのは

利益 = 売り上げ ― 経費(人件費など)

によって生まれます。

では実際に、商品を売って利益を出している会社から、ブラック企業を考えてみます。

 

例えば下の図のように同じ鉛筆を売る会社AとBがあったとします。鉛筆に大きく差がないものだとすると、A社は150円でB社は90円で販売していました。当然、私たちは、90円の鉛筆を買う人が多いと思います。

 

 

そうすると上の図のように、150円で売っているA社は売れなくなるので、「これは大変だ」と思い値段を下げます、逆に売れているB社は売れすぎて品切れになれば値段を吊り上げます。これを需要と供給のバランスといいます。需要というのは欲しい人の数、供給というのは売りたい商品の量です。

今回のブラック企業、この需要と供給が大きくかかわっています。

需要と供給のバランスがなぜこのようになるのかは、詳しく話すと長くなるので割愛しますが、下図のように売る側と買う側のバランスがちょうど良い位置で取られるようになっています。

例えば、先ほどの鉛筆の例でいえば、春になり新学期の需要で鉛筆の需要が上がり、供給が追い付かなくなれば、値段も上がっていくという仕組みになっています。

 

 

次にこのA社とB社が売っている鉛筆市場にC社が参入しようとします。C社がこの中には参入するということは、鉛筆の数が増えます(供給が増加)。そのためC社は120円より高く値段をつけると売れないのがわかるので、値段を下げて販売します。ところが、このC社は実は、鉛筆を作るノウハウがA,B社ほどあるわけではありませんでした。しかし、鉛筆を作り利益を出さなければ行けません。

 

利益=売上―経費(材料費や人件費)という図を思い出してください。

鉛筆を安くし売上が下がれば、また材料費などの経費を下げるノウハウがなければ人件費を下げるしか、利益を上げる方法はありません。しかし、人件費を支払う相手である労働者は労働法という法律で守られているため、なんとか工夫をこらし人件費を違法に減らすことによって価格が低い鉛筆を販売しました。

こうした激しい企業同士の競争の中から生まれてくるのがブラック企業です。

 

労働者の賃金は厳しい労働法によって守られていますが、それを様々な方法で破ることによって、競争に打ち勝とう、生き残ろうというモチベーションにより生まれてきます。本来、全員が労働法を守った状態で競争していれば、勝ち残り潰れなかった企業が、違法な労働をさせる企業により商品の価格が安くなり、競争に追いつけず潰れてしまう。このような社会全体の問題にもブラック企業は繋がってきます。

 

ここでこのような疑問が生まれることでしょう。なぜ、安い賃金の労働をする労働者がいるのか、他に良い賃金の労働があれば移るのではないか、そうすれば、違法な企業はすぐにつぶれるのではないかと思うことでしょう。

 

 

違法企業がなぜ潰れないのか

市場というのは、価格競争についてこられない企業や商品を淘汰し、自らバランスをとる機能があります。これを市場原理といいます。そして労働者の移動も、労働市場と呼ばれる市場だと考えられます。この場合、需要というのは労働者の数であり、供給というのは雇用したい人数です。

つまり、労働者が移動できる高い賃金の企業(供給)があれば、違法に安くする企業は人件費を上げないといけません。(価格の上昇)そうして人件費を上げた結果利益が出せないのであれば、ブラック企業は市場から撤退するしかありません。

しかし、ブラック企業が世間に叩かれながらも生き残っているということは、違法ではない状態で働ける労働者の数が飽和していることを表しています。(需要過多)これは、労働者が余っている状態と言えます。

ブラック企業がつぶれないのは様々な理由がありますが、簡単にいえばブラックではない企業を求める労働者が余っている、つまり需要の方が多いということを表しています

 

 

労働者はなぜ余ってしまったのか?

原因は複合的な社会背景が関係しているので単純には言えませんが、次のようなことが挙げられます。

 

1 大卒者が増えた
(従来よりも大卒者の価値が低下)

2 解雇の規制が厳しい
(会社都合での解雇が難しいシステム【日本型雇用システム】になっているため、労働者を切りにくく新規の労働者を取りにくい)

3 少子高齢化で企業の社会保険負担の増加
(日本においては、社会保険という福祉的な役割を企業が担っているため、少子高齢化で負担が増加することは、人件費の増加であり余力が減少)

4 グローバル化により多国籍企業が増加
(国内だけではなく、多国籍企業が世界での潮流となり、世界での競争に乗れない企業は弱体化し、特に中小企業は国内市場で戦っていたため大きく影響を受け、また国内の企業が海外に行き海外の安い労働者を雇用したため、国内の労働者の需要が減少3。)

5 円高の進行
日本の産業構造は自動車産業など、資源を輸入し、製品を輸出する産業が支えていたが、それは円安に支えられており、プラザ合意以降の円高の進行により、国内産業が不振となった。

 

このように、理由は複合的で様々なですがありますが、私たちにとって大切なのは、現在上の図のようなことが私たちの身に降りかかってるということです。

ブラック企業が生き残っている理由は、違法ではない企業の雇用の枠つまり、供給が足りていない状態であり、労働者が余っている状態です。例えるなら椅子取りゲームで椅子が全然足りていないような現状になっています。

 

そんな中でブラック企業でも働ければいいという人が出てくるのは、当然であると考えられます。もちろんブラック企業だと気がつかずに働き、気づけば心身共に破壊されてしまったということもあります。また、正規雇用が企業にとってコストが高いことから、利益を追い求める企業によって、非正規雇用の枠が増え、非正規の労働者が増えていくのも同じ理由です。

 

 

私たちはどのように考えればいいのか、経済学の歴史からブラック企業を見る

上の図のように考えると、働く人にとっては厳しい現実なような気がしてきますが、実は先進国と言われている国は、社会構造が違うので全く同じではありませんが、似たような問題を抱えています。
それは、ひとえに経済の発展が全体的に鈍化しており、今までのやり方に限界が来ているのがわかっているからです。日本においては高度経済成長期という、非常に好景気な時期がありましたが、好景気は世界中で起こっていました。

 

しかし、経済学という学問は、その時代の問題を分析し処方箋を出す役割を持っています。資本主義社会の歴史は、幾度も問題を抱え、その都度新しい経済学の考えを打ち出すことで乗り切ってきました。ここでは、経済学の歴史を簡単に見ていきたいと思います。

経済学の歴史

18世紀

古典派経済学

アダム・スミス

19世紀

マルクス経済学

カール・マルクス

20世紀

ケインズ経済学

ジョン・メイナード・ケインズ

新自由主義(シカゴ学派)

ミルトン・フリードマン

 

 

アダム・スミスの経済学からみるブラック企業

アダム・スミスは「近代経済学の父」と呼ばれており、まさに世界の経済の考え方に大きな影響を及ぼしました。

まず大きく変化したのは、「富」とは何かということです。それまで人々は富というのは金、銀、銅などの貴金属のことを指していました。そのため、ヨーロッパの国々は富を集めるために、物を輸出し貴金属を国内に集めることが良いと思っていました4。

一方で、アダム・スミスは富を「国民の労働で生産される必需品と便益品」と定めました。

必需品とは、生活必需品のことで、便益品とは必須ではないがあると生活が豊かになるものです。なので、彼は生活を豊かにするためには様々な必需品と便益品が手に入った方がいい。つまり、世界中と自由な貿易をすることが良いと考えました。

ここで先ほどの「需要と供給」のバランスが勝手に取れることを説明しましたが、これを彼は「見えざる手」と呼びました。

売り手も買い手もそれぞれ自分の利益になるように行動している。しかしその結果、見事に価格が決まり経済はうまく回っていく。なので、なるべく自由な競争をした方がいいと彼は考えていました。そのため、国家の役割は国防と司法と公共施設の整備だけでいいと主張しています。アダム・スミスから見れば、ブラック企業というのはそもそも、労働者の労働時間などに規制が入っていることはよろしくないということになるでしょう。

 

実際当時はまだ労働者を守るルールというのはありませんでした。世界で労働者を特に女性や子どもを守る法律ができるのは19世紀からになります。

 

 

マルクス経済学から見るブラック企業

19世紀になると、市場の「見えざる手」に任せておけば豊かになる、上手く経済は回るという楽観的な主張では無視できないほど、イギリスやヨーロッパでの悲惨な労働者の現状が浮かび上がってきます。
こうした社会を目の当たりにしたマルクスが新しい経済理論を打ち立てたのです。

残念ながら、彼の考えた社会主義経済を打ち立てた社会主義国家はソ連や東欧、中国などありましたが、現在ではソ連や東欧も崩壊し、中国も実質的には資本主義経済になっています。しかし、派遣切りやブラック企業の問題は、まさにマルクスが問題にしていた資本主義の問題そのものです。

マルクスは労働者が生み出している価値に注目しました。

 

労働力が生み出している

 

必要労働

余剰労働

賃金(労働者の給料)

=労働力の再生産費1

資本家の利潤

上の表は労働者が生み出している価値です。必要労働とは、労働者に支払われる賃金のことを表しています。資本家というのは、会社の経営者のことです。資本家は労働者に労働をさせることで利益を出していきます。
資本家は、他の経営者との激しい競争の中にいます。そのため利益を出すためには、労働者の賃金というコストをカットしていきたいと思うようになります。つまり、余剰労働を増やしたいと考えるのです。

余剰労働を増やすには2つあります。1つは、残業をさせることです。特に給料をそのままで残業時間が2時間増やせればその分が利益6になります。サービス残業という言葉がまさにこれですね。見込み残業や採用労働制もこの考えから来ています。

もう一つは、労働時間は増やしませんが、必要労働時間を減らします。これには、機械を導入するなど生産性を上げる、また失業者を増やして余剰労働力人口を増やし労働者の賃金を安くする、他にも労働力の再生産費を下げるつまり、生きるのにかかるお金、服や食費が安くなればその分賃金を支払う必要が減るという考え方もあります。

マルクスはこのような構造をもつ資本主義経済を、資本家が利潤を追い求めた結果、労働者は困窮し、資本家はお金持ちになるなっていく、つまり格差が広がっていくと指摘しました。なので、マルクスは労働者が団結して革命を起こし、資本家を打ち倒し、資本家のお金を労働者に分配すると考えたのです。

まさにブラック企業は、マルクスが分析した資本主義がもつ問題そのものです。

 

 

ケインズ経済学からみるブラック企業

マルクスはイギリスのような先進国で労働者の革命が起こり社会主義国が出来上がって行くと考えていました。しかし、実際には社会主義にイギリスのような国では生まれず、資本主義は生き残りました。資本主義を延命させたと言われるのがケインズの経済学です。

ケインズは、企業が採用を控え働きたくても働けない、「非自発的失業者」について注目しました。

企業がお金がなくて雇用をしないのなら、政府がお金を出して雇用を増やせばいいと考えました。政府が財政支出をすることで、色々な企業の仕事が増え、給料が増えます。給料が増えればそれだけ消費をするので、お金がまわり経済はよくなると考えたのです7。今回のコロナで消費が落ち込んだため、定額給付金で10万円が配られたのもこの考え方を元にしています。

現在では当たり前のように行われていますが、当時の経済学としては非常に新しい考えでした。

 

この考えを基にすると、労働者の賃金が上がると消費が増えて、景気が良くなります。つまりブラック企業のように、労働者の賃金を下げて働かせようとすることは、景気を悪くしていると考えられます。

実際には、ケインズ経済学の考え方も失敗したのではないかと言われています。原因は赤字が増え続けてしまったからです。ケインズは景気の悪いときに財政支出をし、景気を刺激します。逆に好景気時には財政支出をやめ税金の収入を上げ取り返す考えでした。しかし、景気がよくなっても財政支出がやめられず8、また景気の刺激の効果も弱く9なってしまいました。

 

 

新自由主義からみるブラック企業

近年最も流行している経済学が、「新自由主義」という考えです。ケインズ経済学はマルクスが指摘したような、資本主義の問題点を上手く回避し、革命がおこることはありませんでしたが、巨大な赤字を抱えることになりました。なので、フリードマンは、ケインズ経済学は失敗したといって新しい経済学を主張しました。

 

フリードマンは簡単にいえば、政府は国民の自由を尊重しよう、経済は自由にすればいいと主張しました。例えば、最低賃金や家賃・賃金・物価の統制、社会保障などは要らないと言いました。フリードマンからすれば、ブラック企業というのは、労働法があるから生まれるのであって、そうした制限はいらないのだという主張です。日本において派遣労働者の自由化や裁量労働制の拡大などはこの新自由主義の考え方を基礎としています。

 

新自由主義の考え方は、近年日本などの先進国で流行中です。新自由主義は、古典派自由主義の現代風アレンジ版と言えるような考え方です。そのため、マルクスが指摘したような資本主義の問題、つまり格差の拡大が広がってくると考えられます。

 

 

まとめ

ブラック企業がなぜ生まれるのか?という疑問から、経済学の考え方を見てきました。経済学を見るとブラック企業の問題も、なぜ生まれるのかという原因も説明ができると思います。

経済学は時代の変化に合わせて、その時代に合わせた考えが展開されてきました、現在ではケインズ経済学の考えを抑えながら、フリードマンの新自由主義の考え方が流行しつつあります。私たち一人一人が新自由主義の考えに乗っかり競争での勝利を目指すのか、それとも別の道を考えるのか、一人一人が考えなければならない時代に突入しています。

 

参考

[1] ブラック企業-日本を食いつぶす妖怪

[2] このような自己の利益を最大化しようと選択し行動する人間のことを、合理的経済人といい、経済学モデルの基本になっています。

[3] 産業の空洞化と呼ばれ、国内から人件費のコストが安い海外に移転し雇用や税収が失われてしまい、大きな問題となっている

[4] 重商主義と言います。産業革命以前には主流の考え方でした。

[5] 労働者が労働をするには、食費や住宅費、衣服、遊ぶなど生きてまた労働をするのに必要なお金という考え方です

[6] 絶対的余剰価値と呼びます

[7] この考え方を乗数効果と言います。例えば100億円の財政支出をして道路を作る際にその100億円がすべて使われれば100億円需要が増えたと考えます。

[8] 日本各地に道路や新幹線を作り雇用を創出しましたが、地方に誘致した政治家は景気が良くなったからといって、誘致をやめるということは出来ませんでした

[9] 景気が良くならないとみんなが考えることで財政支出をしても、誰も消費せず乗数効果が弱くなってしました





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