お金を借りたのにも関わらず、お金を返すことができない場合、建物などを差押えされることがあります。これは、お金の貸し借りも法的な契約の1つであり、お金を返すという債務を履行する義務があるため、裁判所が強制執行することができることがあります。
今回は、債務が履行されなかった場合においておこる損害はどのパターンであれば賠償請求できるのかについて解説していきます。
415条、条文の変更
改正前第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
改正後第415条
1 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
415条は、債務不履行の場合は損害賠償請求をすることができるということが示された条文です。改正によって、今までの曖昧であった部分がよりしっかりしたものになります。それでは、ポイントを解説していきます。
415条のポイント
415条の1項では、「債務の本旨に従った履行をしないとき」と、「債務の履行が不能であるとき」には、損害賠償請求権ができますよ、と明記されています。
ただし、例外として債権者に責任が問えない時は除きます。(帰責事由がない)
イメージとしては、建物の売買契約を結んでいて、建物を引き渡そうとしたが、災害(地震や水害など)で壊れてしまい、渡すことが出来ないという場面が考えられます。
これは、債権者に責任を問うのは難しいですよね。
415条の2項は、損害賠償をするための要件を明文化したもので、履行不能であるとき、履行の拒絶をしたとき、契約が解除された時をあげています。
帰責事由とは?
この場合の帰責事由は、債務者の責めに帰すべき事由つまり、債権者に故意または、過失があるという意味です。先ほど挙げたように、地震のような災害の場合、債権者に故意や過失があったとは考えにくいです。
債権者に責任がない(故意過失がない)と証明が出来れば、損害賠償請求はできないとなります。改正前民法では、「債務の本旨に従った履行をしないとき」の場合は、本人に責任がなくても損害賠償請求ができると読めるような文章になっていました。(改正前から故意・過失がなければ損害賠償請求ができないと考えられていましたが)
そのため、今回の改正で故意・過失がなければ、責任は問えないので損害賠償請求はできませんよと、明文化されました。
簡単に故意・過失と書きましたが、今回の改正では、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」本人の責任に帰することができないときと書かれています。単純に故意・過失ではなく、契約時にどのようなことを取り決めたのか、というのを重視するということを盛り込んでいます。
今回の改正、全般において、社会通念と発生原因という言葉を用いて、約束時の状況、約束の内容を重視する考え方が盛り込まれています。
損害賠償の請求ができる要件とは
415条の2項では、損害賠償請求ができる要件について書かれています。この場合の賠償を「填補賠償」といいます。補填賠償とは、債務が履行されたのと等しい状態になるだけの賠償という意味です。
借り物のテントを壊してしまったとします。この場合、テントが現在変える代金を賠償すれば、債務の履行(テントを返す)と同じことをしたと言えます。このような考え方が補填賠償です。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
一の履行不能については、412条の2で解説したので、そちらを確認してください。簡単に言えば、履行をしようがない状態です。例えば、借りていた家が燃えたなど、燃えた家を返すのは物理的に無理ですよね。
二の履行の意思の拒絶は、その名の通り履行しませんよ!と突っぱねられることですね。履行を求めるようにもできます(民法414条履行の強制)が、履行しないならその分補填賠償してください、とも言うことができます。
三は、「契約の解除」か、「契約の解除権が発生したとき」です。
解除というのは、当事者の合意または、一方的な意思表示によって、契約を終わらせる行為です。
解除権というのは、改正後民法の541条か542条を満たす場合です。
(催告による解除)
第541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
(催告によらない解除)
第542条
1 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
541条では、催告した(債務を履行してねと言った)が、かなりの期間履行されなかった、という場合には、解除権がある(解除ができる状態)となります。
542条では、催告しなくてもできる場合の要件が明記されています。
このような541条、542条にあてはまる場合は、補填賠償ができるということになります。
まとめ
債務不履行の場合は、その不履行を補填する形で賠償を請求することができます。しかし、帰責事由がない(本人に責任がない)場合には、請求することはできません。
非常によく使われる条文であるため、細かい部分まで理解しておく必要があると思います。