法改正

【主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第458条の3)

458条の2では保証人の保護に関するルールが追加されていました。今回は保証人の保護に関するもう1つのルールについて解説していきたいと思います。

 

 

458条の3の条文

【改正後民法】

(主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務)

第458条の3

1 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。

2 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない

3 前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない

 

458条の3は新しく追加された条文になります。今回の改正では、あまりにも保証人が気の毒な場合があるということで、保証人の保護を考えて条文が追加されています。

今回は、債務者が延滞金を出した場合の保証人の保護になります。

 

 

延滞損害金とは

債務は弁済の期限に遅れると延滞損害金が発生することがあります。借りたDVDの返却に遅れると延滞金を取られますが、それと同様に債務は、期限を過ぎると延滞損害金を請求されます。

 

DVDの場合でも延滞をすると電話がかかってくることがありますが、債権者も債務者に催促を行うことでしょう。しかし、そうこうやり取りをしている間にも延滞損害金は膨らみ続け、債務者が破産や雲隠れした時には、莫大な延滞損害金になっているということもあるかもしれません。

 

保証人は債務者が債務の履行ができなくなった時に代わりに履行しますが、延滞損害金もある場合も含めて履行しないといけません。

 

(保証債務の範囲) 

第447条

1 保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。

2 保証人は、その保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができる。

 

民法の447条では、利息や違約金、損害賠償なども含んで保証人は債務の履行をしないといけないと明文化されています。

そのため、保証人が知らないうちに、延滞損害金が膨らみ続けている、そして気づいたときには大変なことになっていた。早めに知っていたら先に債務の履行を代理でしたのにという事例もあります。

 

 

条文のポイント

今回は、膨らみ続ける延滞損害金を支払うのはあまりにも保証人が気の毒なため、債権者は延滞損害金が出た場合、保証人に通知する義務ができました。

 

通知は、延滞を知ったときから二ヶ月以内にしないといけなく(458条の3の1項)、もし通知をしなかった場合は延滞損害金を保証人に請求できなくなりました。(458条の3の2項)

 

そのため、知らなかったために延滞損害金をたくさん支払わないといけなくなったという事例は今後なくなることでしょう。

 

 

適用は個人が保証人になっている場合のみ

458条の3の3項では、保証人の中でも個人が保証人になっている場合のみです。法人が保証人の場合は、適用されません。法人の場合は、債権者もしくは債権者と提携状態にあると想定されいているようです。

 

あくまで、個人の保証人で情報の収集能力が高くないという前提から、458条の3の規定があると考えられます。

 

 

期限の利益とは

458条の3の2項の延滞損害金の中に、「期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く」とあります。

 

期限の利益というのは、一定の期限が到来するまで弁済をしなくてもよい、という債務者の利益です。

例えば、1年後に100万円返すという約束でお金を借りていた場合、1年後という期限まで、100万円を返す必要はないです。この状態のことを期限の利益と言います。

支払いを待ってもらっている状態こそが、期限の利益となります。

 

第136条

1 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。

2 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。

 

期限の利益を放棄するとは、1年後に返すはずだった100万円を、それより早く返すということです。期限自体が利益というのは、法律独特の言い回しです。

 

 

期限の利益が喪失するのは、破産や担保を失ったときです。

 

(期限の利益の喪失) 

第137条

 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。

一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。

二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。

三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

 

民法137条には3の場合は、期限の利益を主張できない、つまり喪失するとされています。

なので、延滞損害金の「期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきもの」というのは、例えば、一年後に100万円を返すという契約で借りたけど、毎月2万円ずつ返していくという約束もしたが、毎月2万円の支払いが滞った時、まだ期限の利益は喪失していないけども、毎月2万円の延滞損害金が発生することがあります。この2万円の延滞損害金部分については除くよというのが、かっこの中の内容になります。

 

 

まとめ

保証人がいる債務者が延滞損害金を出した場合、保証人を守る目的で、債権者は二ヶ月以内に保証人に延滞していることを通知する義務が新設されました。

この義務を守らなかった場合、延滞損害金を保証人が支払う義務はありません。

 





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