事業者が、事業の拡大をする場合には、お金を借りることがあります。企業の事業拡大であれば、借りる金額も莫大なものになります。大きな額が動くとき、特に事業の拡大では返済できない可能性もあり、保証人を立てるのは基本的なことです。
今回は、大きな取引の保証人が、公正証書という契約書を必要とする場合について解説していきます。
第465条の6の条文
(公正証書の作成と保証の効力)
第465条の6
1 事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。
2 前項の公正証書を作成するには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 保証人になろうとする者が、次のイ又はロに掲げる契約の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事項を公証人に口授すること。
イ 保証契約(ロに掲げるものを除く。):主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、その債務の全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
ロ 根保証契約:主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の範囲、根保証契約における極度額、元本確定期日の定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、極度額の限度において元本確定期日又は第四百六十五条の四第一項各号若しくは第二項各号に掲げる事由その他の元本を確定すべき事由が生ずる時までに生ずべき主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
二 公証人が、保証人になろうとする者の口述を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させること。
三 保証人になろうとする者が、筆記の正確なことを承認した後、署名し、印を押すこと。ただし、保証人になろうとする者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
四 公証人が、その証書は前三号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
3 前二項の規定は、保証人になろうとする者が法人である場合には、適用しない。
大きな金額が動く取引の保証人は、万が一の時に莫大な金額の債務の履行を請求されるため、ただ当人間で契約するだけでは不十分と定めているのが、第465条の6です。
こちらは新設された条文になります。
条文の簡単なまとめ
今回の保証人に関する改正は、全体として個人の保証人が気の毒すぎるケースが多すぎるため、保護しようとする意図がありました。
今回の条文でも、同様に保証人の保護を目的としたもので、大きな金額の保証人には公正証書を作らないといけませんよ、という内容です。
条文には、どの契約が対象となるのか、公正証書の方式が明文化されています。
公正証書とは
公正証書とは、公証人法に基づき、法務大臣に任命された公証人が作成する公文書です。
保証人と債権者という個人間で契約をするのではなく、公証人という第三者の人物が間に入り、文書を作成することで契約の信頼性は極めて高くなるという効果があります。
公正証書は、公証役場に保管されるため、契約書の紛失というリスクもなく、安全性も高いです。また、法律の専門家が作成するため、公正証書の内容が裁判で否認されたり、無効とされる可能性は極めて低く、法律の専門家が契約内容のリスクをしっかりと保証人にも説明するため、債権者や保証人双方に安心感をもたらします。
条文の対象となる保証契約
条文では、全ての保証契約について公正証書を作れとは、言っていません。公正証書を作るのは、重要度の高い保証契約の場合で、次の2つが対象になります。(第465条の6の1項)
①事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約
②主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約
2つとも事業のための保証契約ですが、内容は保証契約か根保証契約かという保証契約の種類の違いです。
根保証契約とは、保証契約が、一つの債権だけの保証人であることと異なり、将来発生する不特定の債務まで保証するものでした。(第465条の2)
貸金等債務というのは、「金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務」(第465条の3)のことです。簡単に言えばお金を借りることです。
なので、対象となる契約は、事業のためにお金を借りる場合の、保証契約か根保証契約です。
また、「保証人になろうとする者が法人である場合には、適用しない」(第465条の6の3項)とあるので、個人の保証人の場合のみです。法人は除外されます。
公正証書のルール
公正証書を作ればなんでもいいわけではありません。公正証書にもルールがあります。
まず公正証書を作成する期日は、保証契約日より前、一か月以内に作成しないといけません。(第465条の6の1項)
契約日より後での作成や、早すぎる作成は公正証書として認められません。
次に公正証書作成の流れは4ステップを踏む必要があります。(第465条の6の2項)
①保証人が公証人に口授(2項1号)
②公証人が筆記をし、読み聞かせまたは閲覧(2項2号)
③保証人の承認と署名押印(2項3号)
④公証人の署名押印等(2項4号)
①では、保証人が万が一の時に債務の履行をする意思表示を公証人にしないといけません。イとロと2つ書いてありますが、それぞれ保証契約と根保証契約で債務の履行範囲が違うことを確認しています。
②では、保証人が伝えた意思表示を、公証人が文書に起こします。そして起こした文書に誤りがないか保証人に読み聞かせるか、閲覧してもらいます。
③では、公証人が記した内容に誤りがなければ、保証人は承認し、署名をします。
④では、最後に公証人が署名をします。
公正証書の作成には債権者や他の証人の立会いは必要ありません。保証人と公証人で作成することができます。
まとめ
個人の保証人を立てる場合の中で、事業に関するお金の借り入れでは、公正証書を作る必要があるということを定めたのが第465条の6でした。
全体として今回の改正では保証人の保護に力を入れているため、保証人にリスクを伝えるためにも、第三者の法律の専門家である公証人が介入することで、保証人が気の毒なことになるケースを減らす目的があります。