債権の譲渡については468条で最後の条文になります。最後は債権の譲渡に対して、債務者が抗弁できる場合をまとめた条文になります。改正前と比べて大きく変わったため、今回は改正ポイントを重点的に債務者の対抗を解説していきます。
468条の条文の変化
【改正前民法】
(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
第468条
1 債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
2 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
【改正後民法】
(債権の譲渡における債務者の抗弁)
第468条
1 債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
2 第466条第4項の場合における前項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条第4項の相当の期間を経過した時」とし、第466条の3の場合における同項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。
今回の改正では、今まで、曖昧であった債務者が譲受人に対抗できる期間をまとめて示すことと、抗弁権の切断規定を変更しています。
抗弁権の切断規定を削除
改正前の民法では、抗弁権というのが債権の譲渡により、切断されていました。
これは例えば、AさんがBさんに対して債権を持っていたとして、その債権は既に時効を迎えていたとします。しかし、Aさんは時効の迎えた債権をCさん譲渡し、それをBさんが承諾しました。そうすると、「譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない」とあるので、時効という対抗する事由があったにもかかわらず、譲受人には時効がリセットされてしまうという事態が起こってしまうのです。条文にある「異議をとどめない」という部分がポイントでした。
そのため、この制度を悪用して、時効を迎えた債権を取り立てるために、債権者が債権を回する収業者に譲渡し、新しい債権者であると言い、それを異論なく承諾させ、債権を回収しようとする悪質なこともできてしまいました。
新しい債権者に変われば、いくらでも時効の延長ができるというのは、債務者からすると知らないことです。そもそも、時効の延長のために、債務者は新しい債権者だと認めたわけではありません。そのため、債務者の保護を目的として、この条文は削除されました。
そのため、新しい条文では「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる」と改正され、もし新しい債権者がきてそれを承諾したとしても、前の債権者に対する対抗の理由が、引き継がれ時効は時効であると主張できるわけです。
対抗要件具備時とは
対抗要件具備時より、前と後でルールが変わるというのが、468条のポイントです。
対抗要件具備時とは、譲渡人が債務者に対して、通知をするか、債務者が承諾をした時です(466条の6と467条)
つまり、債務者に債権譲渡を知らせた時か、譲受人が表れて、新しい債権者になったことを債務者が承諾した時が、対抗要件具備時となり、分かれ道になります。
債権者が債務者に通知より前に、時効が完了していた場合、譲受人が来たとしても、新しい債権者であると承諾したとしても、時効を理由に債務の履行を拒むことができます。
逆に、通知した後に時効が来た場合は、この条文を使わずとも、譲受人が既に債権者となっているので、時効を理由に債務の履行を拒否することができます。時効は譲渡で債権が移動しても、延長やリセットはされないということです。
468条2項のポイント
2項では、466条の4項と466条の3で定められた場合の補足で、債務者ができる抗弁(468条の1の規定)がこの2つの条文ではどの時期に当たるのかが示されています。
466条の4項は、「前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。」でした。
この条文は、債権の譲渡で、債務者が反対した場合に、債務者は譲受人に債務の履行をしなくてよく、元の債権者に債務の履行をすればよいというものですが、その後、譲受人は元の債権者に債務の履行を催告することができ、それが一定期間されなければ、債務者から直接債務の履行をしてもらえるというものです。
この「相応の期間」が、468条の1項の対抗要件具備時に当たり、それより前の抗弁事由は、譲受人に引き継がれます。
譲受人が、債務者の譲渡拒否を知っているという悪意がある場合が466条でしたが、この場合だと、譲渡人が債務者に通知をしても、まだ対抗要件具備時にはならず、相応期間を定めて、履行の催告をした後から、という基準になります。
466条の3の場合
第466条の3
前条第1項に規定する場合において、譲渡人について破産手続開始の決定があったときは、譲受人(同項の債権の全額を譲り受けた者であって、その債権の譲渡を債務者その他の第三者に対抗することができるものに限る。)は、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかったときであっても、債務者にその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができる。この場合においては、同条第二項及び第三項の規定を準用する。
次に466条の3では債務者が債権の譲渡に反対している場合でも、譲渡人が破産手続きを始めた場合、債務の履行を供託を通じてさせることができるという内容でした。
譲受人からすると、破産手続きを始めている人に債務の履行をされたり、破産管財人に履行されたりすると、自分のところに来なくなってしまいます。
このような破産手続きを始めた譲渡人がいる場合の、対抗要件具備時は、「譲受人から供託の請求を受けた時」になります。供託所を通じて自分のところに履行してということを請求される前か、後かという所が分岐点となります。
まとめ
債務者が譲受人に対抗できる、つまり債務の履行を拒否できるような場合を抗弁と言いました。これが、譲渡人の時の抗弁が引き継がれるタイミングを対抗要件具備時と言います。
特に、時効という対抗の理由がある場合だと、対抗要件具備時前に、時効が完成していたら、それが譲受人に引き継がれ、債務者は時効を理由に債務の履行を拒否できます。また、対抗要件具備時は、譲渡人が債務者に通知した時か、債務者が債権者の変更を承諾した時です。
さらに、特別な場合として、対抗要件具備時が、466条の4項である、譲受人に悪意または重過失がある時は、「譲受人が相当の期間を定めて催告した後」に変わります。466条の3では、譲渡人が破産手続きをした場合ですが、この時は「譲受人から供託の請求を受けた時」に変わります。