債権者は債権を他人に譲渡することができました。逆に、債務者の債務を別の人が肩代わりすることもできます。これを、債務引受といいます。今回は債務を引き受ける場合の要件を解説していきます。
民法470条の条文
【改正後民法】
(併存的債務引受の要件及び効果)
第470条
1 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。
2 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。
3 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。
4 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。
470条からは、債務引受について解説しています。債務引受の中でもこの条文では併存的債務引受の基本ルールを明らかにしています。まずは、債務引受から詳しく説明見ていきましょう。
併存的債務引受とは
債務引受というのは、他人の債務を引き受けるということでした。
実は、470条の条文は改正前は指図債権という項目で、債務引受に関しては、民法の条文にはありませんでした。
判例上で債務引受は認められていたので、今回の改正でついに明文化されたことになります。
債務引受には、2種類のパターンがあります。
①、併存的債務引受(470条)
②、免責的債務引受(472条)
それぞれ、別個に条文が作られました。
併存的債務引受は債務者と連帯して債務を引き受けますよという連帯債務者のような仕組みです。
免責的債務引受は、債務者に代わって債務を引き受けますよという債務者を交代する仕組みです。
470条では併存的債務引受という債務者を追加する場合のルールを解説します。
併存的債務引受は連帯債務者になるということ
併存的債務引受は、今の債務者と新しく債務を引き受ける人(引受人)が連帯して債務を弁済するという仕組みです。条文には、「同一の内容の債務を負担する」とあるので、例えば、100万円の債務であれば、100万円を引受人も負担することになります。
これは連帯債務者になると同じことです。連帯債務者に関するルールは436条に記されています。
(連帯債務者に対する履行の請求)
第436条
債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。
連帯債務者になると、債権者はどの連帯債務者にも債務の履行を請求することができます。なので債権者からすると、返済の可能性が高くなり、安心感が増しますし、一番資力がある人に請求すればいいので一人の時よりも楽です。
併存的債務引受のやり方
併存的債務引受は後から、私も債務者になってあげますよという仕組みです。この引受をするには、債権者と引受人の契約が必要です。(470条第2項)
なんと、元々の債務者の同意がなくても、引受人は連帯債務者になることができます。連帯債務者が増えることは、債権者にとって損はありませんが、元々の債務者は知らないうちに債務者が増えたら不思議な気持ちになるかもしれません。
しかし、債務者を増やすには、引受人と債権者の契約だけあればよいのです。
引受人になる方法には、もう一つあります。それは、債務者と引受人が契約することです。(470条第3項)
債務者がもう一人、連帯債務者となる人を後から探してくるパターンです。こちらは、債権者の承諾が必要です。
確かに一般的に考えると、急に債権者の同意なく、新しい債務者が増えていたと言われても債権者がその債務者を指定して、債務の履行を請求することができませんし、債権者の意思もあるので、債権者の同意が必要なのは道理です。
また、債権者の同意が必要なのは、債務引受だけでなく、保証人や贈与も同じになります。
まとめ 併存的債務引受には二種類のやり方があります。
①債権者と引受人が契約する(470条第2項)
②債務者と引受人が契約し、債権者が承諾する(470条第3項)
第三者のためにする契約とは
470条の4項には、「前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。」とあります。
併存的債務引受は、「第三者のためにする契約」という種類の契約だということです。
第三者のためにする契約は、民法537条に記されています。
(第三者のためにする契約)
第537条
1 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
3 第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
537条を470条の場合に当てはめると、第三者は「債権者」となり、債務者は「引受人」となります。
これに基づいて、条文を変化させると、次のようになります。
1 契約により当事者の一方が債権者に対してある給付をすることを約したときは、その債権者は、引受人に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
つまり、債権者は債務者を無視して、引受人に直接請求できますよということになります。
もう一つ、第三者の契約に関する条文が538条にあります。
(第三者の権利の確定)
第538条
1 前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
2 前条の規定により第三者の権利が発生した後に、債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には、同条第一項の契約の相手方は、その第三者の承諾を得なければ、契約を解除することができない。
こちらも、第三者は債権者となり、債務者は引受人に変換します。
1 前条の規定により債権者の権利が発生した後は、当事者(債務者+引受人)は、これを変更し、又は消滅させることができない。
2 前条の規定により債権者の権利が発生した後に、引受人がその債権者に対する債務を履行しない場合には、同条第一項の契約の相手方は、その債権者の承諾を得なければ、契約を解除することができない。
538条の1項は、債権者の権利が発生したら、債務者と引受人はこの権利を消滅させたり、変更できないとあります。要するに100万円の債権であれば勝手になくしたり、減らしたりできないということです。
538条の2項は、債権者の権利が発生した後に、引受人が債務の不履行をした時に、これを債務者が契約不履行だからといって、債権者との契約を解消することはできないと書いてあります。
連帯債務者になってもらっているので、引受人が債務不履行だからといって、債務者の債務がなくなるわけではないのは当然のことです。
併存的債務引受は、このような第三者のためにする契約という契約の分類になります。
まとめ
併存的債務引受は、別の人の債務に連帯債務者として、追加するというものでした。併存的債務引受人になるには、2種類の方法があります。
一つは、引受人と債権者が契約する方法です。
もう一つは、引受人と債務者が契約をし、債権者を承諾をする方法です。
この、併存的債務引受は、第三者のためにする契約という種類の契約になります。