全国で、平成30年度の児童虐待対応相談件数は15万9850件にものぼります。虐待と聞くとすぐに家庭環境や児童相談所の対応に目が向きがちです。しかし、本当に大切なのは、虐待を受けた子どもたちが、その後どのように生きていくことが出来るのかではないでしょうか?
今回は、虐待を受けた子どもたちの対応とその後を解説していきたいと思います。
児童虐待はなぜ問題なのか
「虐待は良くない」と思っている人は多いですが、なぜ問題なのかと言われると正確に答えることは難しいです。実はなぜ問題なのかが、理解されず、「お金がないのに子どもなんか産んでダメな親だ」、「子どもを虐待するなんて母性がない」などと母親のせいにされがちです。
児童虐待の問題を家族の問題に帰するのは非常に危険な考え方です。家族の問題にしてしまうと、児童虐待はダメな家庭で起こり、児童相談所(行政)がそれを救ってあげている、と考えてしまいます。
しかし、虐待というのは、助けてくれる人が周りにいない、子どもの相性が悪い(発達障害を持つなど)、貧困である、労働環境が悪いといった、複合的な社会の様々なシステムのしわ寄せで起こる現象です。さらに、保護者は子育てに対して第一義的な責任を負います(教育基本法第10条)が、子どもにも権利があるという考えが重要です。子どもの権利と考えれば、親だけで子どもの全ての権利を保障できないのは当然であるため、社会全体で保障していく必要があります。
虐待というのは明確な権利侵害であり、子どもの成長に悪影響を及ぼし、結経済的な損失を生むものなので問題なのです。そのため、社会が子どもの権利を保護することが必要なのでず。
虐待を発見した児童相談所の対応は?
児童虐待の問題を統括し対応をしているのは、児童相談所です。
児童相談所では虐待の疑いを子ども本人や、保護者、家族、地域住民、警察、教師、医師などからの通告を受けて、緊急会議を行います。その結果、緊急性が高い場合はすぐに一時保護を、そうでない場合は調査を行います。
一時保護をした後調査を行う場合でも調査を行う場合においても、「子どもの最善の利益」になるように、子どもの家庭環境や得られるサポート、保護者の生活状態など、心理・福祉・社会学の専門家が総合的に判断をし、決定していきます。
ここからは、児童虐待を受けた子どもたちのその後を解説していきます。
一時保護所とは?
一時保護所とは、児童相談所に併設されている、子どもの安全を確保する施設になります。
子どもの虐待に関する通告で、緊急を要する場合、または調査の結果、現在の環境から引き離した方が、子どもの権利の観点から良いと考えられた場合に利用されます。一時保護所は、原則として2か月という期間が定められており、いくつかの場合を除いて延長することはできません。
なぜ一時保護所を利用するのかというと、子どもの養育は、親が第一義的に行っており、親権と呼ばれる権利を持っています。そのため、行政の介入は慎重に行わなければなりません。児童虐待を受けた子どものこれからを考えるため、保護者との面談などを通じて、児童養護施設などの施設で養育する必要がある場合は、家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所も調査・審判を行います。このような手続きや調査、面談などにかかる期間に、児童相談所の所長判断で入所できる施設として、一時保護所は存在しています。
虐待を受けた子どもたちが入所する様々な施設
虐待された子どもだけが入所するわけではありませんが、年齢や目的に合わせていくつかの施設に入所措置が行われます。
施設名 | 対象と目的 |
児童養護施設 | 1歳以上18歳未満の子ども(ただし20歳まで延長できる場合もある)虐待された子どもの養護と自立支援 |
乳児院 | 乳児(概ね2歳未満)の養育 |
児童自立支援施設 | 不良行為をする児童などに必要な指導 |
情緒障害児短期治療施設 | 軽度の情緒障害の児童を短期間で治療 |
実は、虐待を受けた子どもが、万引きなどの触法行為をして、警察の事情聴取によって虐待が発見されることも少なくありません。
そのため、子どもの環境や状況にあった、施設での支援が必要となっているのです。
児童養護施設とは
虐待を受けた子どもたちの多くが入所する施設は、「児童養護施設」です。
表のようにいくつか施設がありますが、メインとなる施設は児童養護施設といって差し支えありません。2016年時点での児童養護施設の入所児童数は26,459人で、乳児院が2,811人のため、児童養護施設の役割は非常に大きいです。
依然は「孤児院」と呼ばれていた施設でしたが、現在では親の虐待が入所理由のトップになっているため、児童養護施設に1997年から変更されました。児童養護施設では、児童指導員や保育士などの職員が子どもたちを見守っています。しかし、多くの子どもが集まる集団生活の中で、子様々な生い立ちからいじめが発生する場合もあります。
また、職員による体罰が起こるなど、社会的な問題も引き起こしています。もちろん、施設に通う子どもがかわいそうというわけではありません。施設を自分の居場所として肯定的に巣立っていく子どももいることは間違いありません。
児童養護施設での進学
児童養護施設では原則、18歳で退所しないといけません。私たちも経験した通り、子どもは小学校、中学校、高校そして大学や専門学校を通じて社会人として社会に包摂されていきます。現在、大学・専門学校への進学率は73.8%(2018文科省)とかなり一般的になっているのに対して、児童養護施設の子どもの進学率は30.8%と明らかに低い結果になっています。
親の支援が得られない中で、大学や専門学校に行くことは、例え奨学金があったとしても、返済のリスクが強くのしかかります。特に親のいない状態で大学に通うということは住居の確保、授業料や生活費の確保とアルバイトと奨学金で賄うには厳しい生活が容易に予想できます。
親がいる家庭に対して大きな不利益が、のしかかっている状態が問題となっています。また、虐待を通じて自己肯定感が低下している子どもも多くいます。このような中で家庭をもつ子どもよりも明らかに不利な状況を突き付けられるのは、子どもの人格や自立した生活に悪影響を及ぼすことでしょう。
里親制度という道
虐待された子ども(要保護児童)や保護者のいない子どもを養育する制度として、里親制度というものがあります。里親制度は、都道府県知事が認める家庭の中で子どもを引き取り育てることです。
実は、子どもと大人の関係の強さ、関わりの時間の長さを考えると、児童養護施設のような施設型の養護よりも、里親制度のような、家庭タイプの養護が良いのではないかと言われています。しかし、日本では現在、施設型の養護が8割以上を占めており、里親制度は1割程度となっています。
里親4タイプ
養育里親 | 養子縁組を目的とせずに、要保護児童を預かって養育する里親 |
専門里親 | 一定の専門的ケアを必要とする児童を専門とする里親 |
養子縁組里親 | 親がいない子どもなど、養子縁組を前提とした里親 |
親族里親 | 3親等以内の親族で子どもを養育する里親 |
まとめ
児童虐待という現象は、現在の社会では起こりうるものです。児童虐待が起こらないように、社会が家庭を支援することはもちろんですが、虐待が起こった後の子どもたちの養護も大切な課題です。
特に施設に入所した子どもたちは、大学・専門学校に行きにくく、本人の努力とは関係なく不利な状態に陥りやすい問題があります。
現在では、施設重視の養護政策がとられていますが、厚生労働省も里親の割合を増やそうと数値目標を出しています。子どもの権利の保護の観点からより良い、虐待された子どもへの支援を模索していく必要があります。
参考文献
児童養護施設入所児童等調査結果(平成30年)
https://www.mhlw.go.jp/content/11923000/000595122.pdf