法改正

【時効において新概念「完成猶予」と「更新」】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(147条)

時効というのは、2種類ありますが、例えば消滅時効のように、一定の期間、その権利を行使しないと、その権利が消滅して請求をすることができなくなる制度です。

この時時効は、時効期間の満了によって完成すると言いますが、完成させずに延長を認める場合もあります。これを時効障害事由(時効の完成を妨げる理由のこと)と言います。

 

 

今回はこの時効が完成しない場合について、民法の改正ポイントを解説します。

 

時効が完成しないと時はどう考える?

例えば、飲み屋をツケで支払うということがありますよね。ツケの存在を互いに忘れていて、請求していなかったところ、11年後にふっと思い出したとします(そんなことがあるかは不明ですが)

 

しかし、権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または、権利を行使することができる時から10年間行使しないときのいずれか早く到達するときに時効によって消滅します(改正民法第166条)

 

そのため、飲み屋のツケは既に、請求できる時効が完成しているため、飲み屋さんはツケを支払ってもらうことができません。

少し変えて、ツケを時効が完成するギリギリで思い出したとします。すぐに裁判所に申請をして、訴えることにしました。訴える手続きが長引いて、時効の完成が終わってしまったら、裁判所が迅速でなかったために、請求ができなかったということで問題が起こってしまいます。なので、裁判所に手続きをしたら時効の完成を延長する必要があります。

こうした時効の完成を妨げる様々な事由が、時効障害事由です。

 

旧民法では時効障害事由について「中断」と「停止」の2つで考えていました。

 

時効の中断は、一定の事由があったことにより、これまで進行してきた時効期間がリセットされるものです。

 

時効の停止は、一定の事由があったことにより、時効の完成が猶予されるというものです。

 

わかりやすくいうと、中断は5年で時効が完成のところを、4年目でリセットされ、4年目からまた5年間の時効がある。つまり合計で8年ちょっと時効があることになります。

停止は、時効期間を延長するということになります。

 

旧民法における、「中断」と「停止」は日本語的に意味があっていないものでした。そのため、新たな「完成猶予」と「更新」という言葉が使われるようになりました。

完成猶予と更新は、日本語の意味通りであり、完成猶予はその名の通り時効の完成を延長するということ、更新は、時効を最初からリセットするということです。

 

中断→更新=時効をリセットする

停止→完成猶予=時効を延長する

 

 

条文はどのように変わったか?(147条)

〔改正前民法〕

(時効の中断事由)

第147条

 時効は、次に掲げる事由によって中断する。

一 請求

二 差押え、仮差押え又は仮処分

三 承認

 

【改正後民法】

(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)

第147条

1、 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。

一 裁判上の請求

二 支払督促

三 民事訴訟法275条1項の和解又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停

四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加

2、 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

 

旧民法では、「中断」(時効のリセット)についてしか明記されていませんでしたが、新しい民法では、1項が時効の「完成猶予」について、2項が時効の「更新」について定めています。

 

 

時効の完成猶予と更新について

147条には「時効は完成しない」という文言があります。これが、時効の完成猶予です。この項では、完成猶予が行われるパターンについて明記されています。

2項では、1項のパターンで例えば、裁判の判決が出たといった場合には、更新が行われる(時効がリセットされる)と書かれています。

 

つまり、何らかの申請や手続きを行い始めると「完成猶予」が始まり、実際に確定すると「更新」になるということです。完成猶予→更新、という流れを取るということですね。では、147条に書かれている4つのパターンについて、一つずつ解説していきます。

 

一 裁判上の請求

二 支払督促

三 民事訴訟法275条1項の和解又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停

四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加

 

 

 

裁判上の請求

「裁判上の請求」をすると、ひとまず、裁判が終わるまで、時効の完成が猶予されます。

裁判上の請求というのは、例えば、滞っている支払いについて、催促しても暖簾に腕押し状態なので、裁判所で訴える、つまり民事訴訟をするといった事例になります。

 

民法の改正に伴って、民事訴訟法も改正されました、たまたま同じ147条ですが、条文は以下の通りです。

 

【改正後民事訴訟法】

(裁判上の請求による時効の完成猶予等)

第147条

 訴えが提起されたとき、又は第百四十三条第二項(第百四十四条第三項及び第百四十五条第四項において準用する場合を含む。)の書面が裁判所に提出されたときは、その時に時効の完成猶予又は法律上の期間の遵守のために必要な裁判上の請求があったものとする。

 

要するに裁判所に訴えが提訴されたときから、完成猶予があるということです。この完成猶予は時効の完成が裁判の判決が出るまで延長されます。

そして、この裁判の結果が確定し、判決が出た、もしくは和解をした際には、権利が確定したと考えられ、更新(時効のリセット)が行われます。

 

改正前は、裁判を起こした段階でひとまず時効が中断(リセット)する効力が生じて、確定判決や和解などによって権利が確定した時から、新たに時効が進行を始めるとされていました。しかし、改正後は、裁判上の請求があった時に、完成猶予(時効の延長)が行われ、権利が確定した時にはじめて「更新」(リセット)に至ります。

 

もし、権利が確定する前に、途中で訴えを取り下げた場合はどうなるのでしょうか。この場合、裁判の訴えを取り消し終了した時点から6か月は時効の完成が猶予されます。

つまり、時効が完成する直前に裁判の申請をすれば、裁判が確定するまでは延長され、取り下げた場合、取り下げた瞬間から6カ月時効の完成が延長されます。

 

 

支払督促の申立て

支払督促は、簡易裁判所でできる、家賃や給料を支払ってもらえないときに使える制度です。簡易裁判所の「支払督促」手続きは、申立人の申立てにのみ基づいて、簡易裁判所の書記官が相手方に金銭の支払いを命じる制度です。書類審査のみで迅速に解決を図れ、まず支払督促をし、相手方から異議申立てがなければ仮執行宣言付きの支払督促へという2段階を踏みます。

 

裁判上の請求と同様に、「完成猶予」→「更新」の2ステップを踏むことになります。

 

支払督促の申立て(民事訴訟法382条)があった時、支払督促の手続が終了するまで、時効の完成は猶予されます。そして、権利が確定すると「更新」されますが、権利が確定するタイミングが少しわかりにくいので要注意です。

 

支払督促をし、異議申立てがないと、仮執行宣言付き支払督促になります。この支払督促に対し督促異議の申立てがないときか、督促異議の申立てを却下する決定がされたときになって、「確定判決と同一の効力を有する」ことになります。(民事訴訟法396条)

 

 

民事訴訟法275条1項の和解又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停

【民事訴訟法】

(訴え提起前の和解)

第275条

1 民事上の争いについては、当事者は、請求の趣旨及び原因並びに争いの実情を表示して、相手方の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所に和解の申立てをすることができる。

2 前項の和解が調わない場合において、和解の期日に出頭した当事者双方の申立てがあるときは、裁判所は、直ちに訴訟の弁論を命ずる。この場合においては、和解の申立てをした者は、その申立てをした時に、訴えを提起したものとみなし、和解の費用は、訴訟費用の一部とする。

3 申立人又は相手方が第一項の和解の期日に出頭しないときは、裁判所は、和解が調わないものとみなすことができる。

4 第一項の和解については、第二百六十四条及び第二百六十五条の規定は、適用しない。

 

和解や調停の申立てをすると、その手続が終わるまで時効の完成が猶予され、成立すると、時効が更新されます。

 

和解や調停が成立しないまま、取下げ等によって手続が終了したときは、裁判への請求と同様にその終了の時から6か月間、時効の完成が猶予されます。

 

 

破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加

破産や民事再生・会社更生は「倒産」というジャンルになります。倒産する際にも、時効の完成を妨害する理由になります。

 

例えば、破産手続参加としては、債権者が破産手続開始申立てをすること(破産法18条)や、破産手続の中で破産債権の届出(破産法111条)

 

破産法

(破産手続開始の申立て)

第18条

1 債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。

2 債権者が破産手続開始の申立てをするときは、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。

 

このような破産といった場合にも、完成猶予から更新という2段階を踏むことで、時効の完成が延長やリセットされることになります。

 

まとめ

時効の完成が妨害される場合は、147条から152条にかけて、その事由が明記されています。いずれの場合も、完成猶予と更新という二種類の新しい概念を使って説明されていますので、今回の改正では大きなポイントとなります。

 

時効の完成の期間も今回で大きく変化したポイントの1つです。従来の複雑な形から今回で整理されましたが、統一されて5年、10年となってしまったため、時効には注意が必要です。

 

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