法改正

【無権代理人の責任】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(117条)

契約の際に代理人を立てることがありますが、その際に例えば、代理権の範囲を逸脱するなどして、代理権がないのに代理権を行使したとみなされ、無権代理人とされます。

本来、代理人の契約した内容は、代理を頼んだ人(本人)帰ってきますが、無権代理人となった場合、この無権代理人はどのような責任を追うのでしょうか。

 

無権代理人について

大前提として、代理人というのは本来Aさん本人が法的行為をするところを、代わりを立てて法的行為をすることです。

 

そのため、代理人がした法的行為は、本人Aさんに効果が帰属されます。しかし、本当は代理権持っていないのに、代理権があるように振る舞ったり、かつて代理権を持っていたが、今は持っていない人が代理権があるように振る舞うなど、トラブルが多数考えられます。

 

このような、本人Aさんと取引した相手方Bさん、そして無権代理人Cさんがいる時に、誰の利益を保護しないといけないのかということが大切になります。

 

まず、無権代理の中で、BさんがCさんを代理権持つ人物だと思い込んでいたとします。その場合、表意代理(形上の代理)とみなされAさんに責任追及ができる場合があります。

しかし、表意代理も認められないと、Bさんが損害を被ります。

 

 

こうした、Bさんの保護のために、無権代理人Cさんに責任追及をできる場合を示したのが、117条となります。

本来ならば、無権代理人は不法行為責任(709条)を負うだけですが、それだけではBさんの保護のために不十分であるので、民法は無権代理人Cさんに特別の責任を負わせることとしています。この責任は、Bさんの保護、ひいては代理制度の信用を維持するための責任であるから、無過失責任であると考えられています。

 

 

117条の条文の変化は?

改正前の117条

  • 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

 

  • 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

 

改正後の117条

  • 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

 

2、前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。

一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。

二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。

三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき

(単独行為の無権代理)

 

 

無権代理人が責任追及を逃れる条件 117条1項

ここでも、本人をAさん、取引先の相手方をBさん、代理人(無権代理人)をCさんとします。第一項では、無権代理人が責任追及をされない場合が書かれていました、しかし旧条文では、「本人(Aさん)からの追認を得ることができなかった」事実を相手方(Bさん)が主張、立証するようにとれる書き方がされていましたが、これではBさんに負担をかけるため、無権代理人Cさんが本人から追認を得たと主張・立証が必要とされていました。

 

そのため、条文も「本人から追認を得たときを除き」と明らかに無権代理人が主張・立証しないとわかる文面へと変化しました。

 

117条1項のポイント

無権代理人が責任追及を逃れる場合は2つ

・自分は代理権があることを証明した時

・本人から追認を得た時

 

上記の2つのうちどちらかをできない場合は、無権代理人は相手方の選択によって、履行か損害賠償の責任を負う。

 

 

相手方Bさんに過失がある場合 117条2項

無権代理人に責任追及をするのは、相手方Bさんの利益を保護することが目的です。そのため相手方に過失がある場合(例えば、代理人がないことを知っていた場合や知りえた場合)はどのようになるのでしょうか。

 

従来の法律では、相手方Bさんに過失がある場合(つまり知っていたもしくは、知りえたのに過失により知らなかった)場合は無権代理人に責任追及ができませんでした。

 

しかし、新しい117条ではBさんに過失がある場合でも、代理人(Cさん)が自分に代理権がないことを知っていて、契約しようとした場合には、Cさんに重大な悪意があるので、Bさんは過失がない場合と同様にCさんに責任追及ができるようになりました。

旧民法よりもさらに、Bさんの保護と無権代理人の責任を重くしたものと考えられます。

 

117条2項のポイント

・BさんがCさんに代理権がないことを知っていた場合には責任追及できない

・Bさんに過失がある場合は、Bさんは無権代理人(Cさん)に責任追及できない

ただし、Cさんが代理権を持っていないことを自分が知っていて契約に臨んだ場合は除く。

・また、Cさんが行為能力の制限を受けていた場合もCさんに責任追及できない

 

 

無権代理人の責任と表見代理との関係は?

無権代理人に責任追及をするのは、取引先の相手方を保護するという考えからでした。しかし、同じように取引先の相手方を保護する考えとして、はじめに出てきた表意代理という考えがあります。表意代理は、無権代理人に代理権があると見えたため、本人Aさんに責任追及ができる考え方ですが、無権代理人の責任と表見代理との関係はどのようになるのでしょうか?

 

これには2つの考え方があります。

 

(1) 補充的責任説

 

1つは、無権代理人の責任は表見代理が成立しない場合に補充的に認められる責任であるとする考え方です(補充的責任説)。この考え方は、117条2項の「過失」を重過失と考えます。無権代理人の責任と表見代理とはともに相手方の善意・無過失を要件としています。そのため、相手方に過失があった場合に表見代理だけではなく、無権代理人の責任も認められないとすると117条の適用場面がほとんどなくなってしまうからです。

 

(2) 選択責任説(判例・通説)

 

もう1つの考え方は、本人の表見代理責任と無権代理人の責任とは互いに独立した制度であり、相手方Bさんはどちらを追及するかを自由に選択できるとするものである(選択責任説)。相手方は、表見代理が成立する場合であっても、無権代理人の責任を追及することができるのであって、無権代理人は表見代理が成立することを主張して自己の責任を免れることはできない(最判昭62.7.7)。本人に対する表見代理の主張と無権代理人の責任追及は、並行して行うこともできると考えます。

 

この考え方は、117条2項の「過失」を通常の過失(軽過失)と解する。したがって、過失ある相手方は、本人の表見代理責任と無権代理人の責任のどちらも追及することができません。(ただし、過失があっても117条2項の2にある、無権代理人が自己に代理権がないことを知っていた場合は、無権代理人に責任追及を選ぶことが出来ます)

 

 

まとめ

無権代理人との取引をした場合、相手方が損害を被ります。そうした場合の保護が無権代理人への責任追及と、表意代理による本人への責任追及という考え方です。表意代理は必ずしも認められるというわけではないので、特に相手方(Bさん)に過失がある場合は、無権代理人に責任追及を狙うのが妥当と考えられます。

 

どちらにせよ、取引の際には過失がないように、十分に代理人を確認する必要があるでしょう。

 

その他の民法改正

法改正

2021/2/2

【債権の譲渡の対抗要件】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第467条)

466条では一貫して債権の譲渡について解説してきました。特に、債務者の保護を目指して、債権の譲渡に債務者が反対の意思表示をする場合の規定が多数ありました。今回、467条では、債権の譲渡を債務者に対抗するための要件を詳しく解説していきます。     このページで分かる事467条の条文の変化指名債権とは対抗要件とは第三者の対抗要件確定日付のある証書とはまとめ 467条の条文の変化 【改正前民法】 (指名債権の譲渡の対抗要件) 第467条 1 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は ...

ReadMore

no image

法改正

2021/2/2

【債権の譲渡における債務者の抗弁】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第468条)

債権の譲渡については468条で最後の条文になります。最後は債権の譲渡に対して、債務者が抗弁できる場合をまとめた条文になります。改正前と比べて大きく変わったため、今回は改正ポイントを重点的に債務者の対抗を解説していきます。     このページで分かる事468条の条文の変化抗弁権の切断規定を削除対抗要件具備時とは468条2項のポイント466条の3の場合まとめ 468条の条文の変化 【改正前民法】 (指名債権の譲渡における債務者の抗弁) 第468条 1 債務者が異議をとどめないで前条の承諾を ...

ReadMore

no image

法改正

2021/2/2

【将来債権の譲渡性】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第466条の6)

将来債権という、将来発生するだろうという債権があります。この将来債権も譲渡することができます。今回は未来の債権についての基本ルールと、譲渡の制限の意思表示がある場合を解説していきます。     このページで分かる事466条の6の条文将来債権とは対抗要件具備時 まとめ 466条の6の条文 【改正後民法】 (将来債権の譲渡性) 第466条の6 1 債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。 2 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生してい ...

ReadMore

no image

法改正

2021/2/2

【譲渡制限の意思表示がされた債権に係る債務者の供託】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第466条の2)

466条では債権の譲渡についての基本ルールと、債務者が反対した場合のルールについて、明確にされていました。次なる466条の2では債務者が反対した場合の「供託」について定めてあります。この記事では「供託」について詳しく解説していきます。     このページで分かる事466条の2の条文供託とは債務者が債権の譲渡に反対した場合の供託供託できる場所供託できる相手は譲受人だけまとめ 466条の2の条文 (譲渡制限の意思表示がされた債権に係る債務者の供託) 第466条の2 1 債務者は、譲渡制限の ...

ReadMore

未分類

2021/2/2

【譲渡制限の意思表示がされた債権の差押え】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第466条の4)

債権者は別の人に債権の譲渡をすることができ、債務者はそれを制限することができないというのが基本原則でした。しかし、債務者が反対した場合、債権をもらった人(譲受人)に債務の履行をしなくてもいいというルールがありました。ではもし、譲受人が強制執行をされ債権の差押えをされた場合はどうなるのでしょうか。今回は債権を差押えられた時を解説します。     このページで分かる事466条の4の条文債権者が別の債権者に強制執行される場合強制執行でも債務の履行をしなくてもいい場合まとめ 466条の4の条文 ...

ReadMore

no image

法改正

2021/2/2

【預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第466条の5)

 債権には預金債権や貯金債権と呼ばれるものがあります。466条では債権の譲渡についての基本ルールを定めていましたが、ここでは、特殊な債権の譲渡とそれを制限する意思表示ができるのかについて解説していきたいと思います。   このページで分かる事466条の5の条文預貯金債権とは預貯金債権は譲渡を制限できる?預貯金債権だけなぜ制限できるのか差押えは可能まとめ 466条の5の条文 【改正後民法】 (預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力) 第466条の5 1 預金口座又は貯金口座に係る預金又は ...

ReadMore

法改正

2020/12/26

【連帯債務者の一人による相殺等】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第439条)

    このページで分かる事439条1項のポイント439条2項、相殺は他の連帯債務者が勝手にできる?まとめ 〔改正前民法〕 (連帯債務者の一人による相殺等) 第436条 1 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。 2 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる。 ⇩ 【改正後民法】 (連帯債務者の一人に ...

ReadMore

法改正

2020/12/26

【詐害行為取消権の期間の制限】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第426条)

 詐害行為取消請求に関する最後の条文が426条になります。詐害行為取消権が使える期間について書かれている条文です。無制限に過去の詐害行為を取消できるわけではないということですね。 今回は、詐害行為取消ができる期間について解説します。   このページで分かる事426条の条文の変化変更のポイント時効の消滅ではなくなった転得者がいる場合はどうなるのかまとめ 426条の条文の変化 【改正前民法】 (詐害行為取消権の期間の制限) 第426条  第424条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時 ...

ReadMore

法改正

2020/12/26

【詐害行為取消請求を受けた転得者の権利】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第425条の4)

今回の改正で、詐害行為に関する内容は大幅に増えましたが425条の2と3では、詐害行為として取消された後の、受益者の権利について書かれていました。 受益者からさらに、贈与などを受けた人で、債権者を害する行為だと知っている人を転得者と言いました。この転得者にも受益者同様の不利益が起こることが考えられるため、転得者にも同様の権利があるのでしょうか。   解説していきたいと思います。   このページで分かる事425条の4の条文転得者の権利とは財産の処分に関する行為での転得者の権利債務の消滅に関する行為で ...

ReadMore

法改正

2020/12/26

【受益者の債権の回復】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第425条の3)

 詐害行為は債務を抱える債務者が、債権者に返すことができないのに、資産を隠したり減らしたりするために、他人(受益者)に贈与したり、不当に安く売ったりすることでした。これらを取消すことで、債務者の財産を回復させ、債権者が取り立てることができるようにするものでしたが、受益者が債務者に対して債権を持っていた場合はどうでしょうか。   今回は受益者の債務者に対する債権について解説します。     425条の3の条文 (受益者の債権の回復) 第425条の3  債務者がした債務の消滅に関 ...

ReadMore





TEL:0120-101-513



メールでのお問合せなら

24時間365日OK!!


お問合せ

よく読まれています

no image 1

    このページで分かる事出張料出張料業務別報酬一覧相続手続き建設業産業廃棄物処理業介護事業障がい児支援飲食業・風俗営業酒類販売運送業在留許可・ビザ自動車登録・車庫証明 出張料 出張料 場所 日当 ...

no image 2

  対応地域内なら何処でも伺います フットワークの軽さに定評のある「増野行政書士事務所」です。対応地域なら全域無料でご相談にお伺いいたします。   茨城県対応地域 龍ヶ崎市、取手市 ...

退職 嫌がらせ パワハラ セクハラ 退職代行 3

Wokandapix / Pixabay     社内で上司のパワハラを受けていた、嫌がらせを受けていた、そのような状況で退職を決意したのであればそれは自己都合の退職ではありません ...

189 児童相談ダイヤル 4

年々増加し続けている児童虐待、近年その虐待件数はスピードを増し平成29年度統計速報で過去最悪の最多件数133,778件となっています。   平成29年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数< ...

-法改正

© 2024 増野行政書士国際総合事務所~茨城県龍ケ崎市