法改正

【第三者の弁済】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第474条)

通常、お金を借りたら、借りた人(債務者)が返済をするのは当然のことです。では、他の人が勝手に返済することはできるのでしょうか。弟が借金をこしらえててそれを兄が、弟に内緒で返済してあげるといったことは可能なのでしょうか。

 

今回は第三者が債務を弁済する場合についてのルールを解説していきます。

 

 

民法474条の条文の変化

【改正前民法】

(第三者の弁済)

第474条

1 債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。

2 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。

【改正後民法】

(第三者の弁済)

第474条

1 債務の弁済は、第三者もすることができる。

2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。

3 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。

4 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。

 

改正後の474条はこれまでの事例を踏まえて、様々な状況に対応できるように強化されました。原則として債務を第三者が弁済することができるのですが、ただし例外としていくつかの場合はできません。それでは、第三者が弁済する場合のルールを確認していきましょう。

 

 

第三者弁済の基本原則

債務の弁済は、債務者だけが弁済できるのかというと、実は違います。

 

原則として債務の弁済は、第三者もすることができます。(474条第1項)

 

この場合の第三者というのは、債務者ではない人、つまり弁済の義務がない人という意味です。ただし、保証人や連帯保証人は、第三者の弁済にはあたりません。なぜなら、弁済の義務があるからです。

 

なので、この場合の第三者は、親戚や友人、家族といった債務者や保証人ではない知り合いのことです。もちろん知り合いでなくても構いませんが、普通見知らぬ人が弁済はしてくれないでしょう。

 

 

債務者の意思に反して第三者が弁済する時

第三者は基本的に、債務を弁済をすることができました。

しかし、債務者にもプライドなどがあり、勝手に弁済をするなという場合もあるでしょう。特に、兄弟や家族といった関係性をもつ身内ならなおさらです。

 

そのため、債務者の意思を尊重する観点から、「債務者の意思に反して弁済をすることができ」ません。(474条の2項)

 

債務者の意思に反するというのは、反対の意思表示をしていた場合のみではありません。第三者が弁済してくれるとは予測できないことですので、当事者の関係や債務の性質など、複合的な観点から意思に反しているといえれば、弁済できません。

 

ただし、意思に反していても弁済できる場合が二種類あります。

 

 

債務者の意思に反していても弁済できる場合

債務者の意思に反している場合でも弁済が勝手にできる場合は次の2つです。

①、正当な利益を有する者が弁済した時

②、債権者が債務者の意思に反していることを知らなかった時

 

①の「正当な利益を有する」というのは、利害関係がある人のことです。

例えば、抵当不動産の第三取得者や、不動産の譲渡担保権者、後順位抵当権者など、債務者の弁済が滞ると損をする人たちです。

担保権を持っている人が2人いた時に、債務者の弁済が片方だけ滞ると、担保に取られてしまい、自分の債権の担保がなくなってしまうかもしれません。こうした利害関係があるときは、正当な利益を有するということで、債務者の意思に反していても弁済ができます。

 

また、保証人や連帯保証人も、正当な利益を有するものにあたりますが、第三者ではないのでこの条文では関係ありません。

 

②の「債権者が知らなかったとき」というのは、債権者の善意があるときといいます。債務者の反対を知らない債権者であれば、正当な利益を有するもの以外でも、第三者が弁済することができます。

 

 

債務者の意思に反していても保証人になることは可能

債務者の意思に反する場合は、正当な利益を有するか、債権者が善意である場合を除いて、第三者が勝手に弁済することはできませんでした。しかし、債権者と第三者の弁済人が契約を結べば保証人になることはできます。この時に、債務者の同意は必要ないので、あまり債務者の意思は関係ありません。

 

実際にこのルールはそこまで使われることはないでしょう。しかし、債務者の意思を尊重することも大切なので条文としては残り続けるかもしれません。

 

 

債権者の意思に反する第三者が弁済の場合

次に、債権者の意思に反する場合の第三者の弁済です。返してくれるというのに、債権者が反対する場合がどれほどあるのかは不明です。しかし、このような場合のルールが新たに追加されました。

 

債権者の意思に反する場合でも次の場合に弁済は可能です。

 

①、正当な利益を有する第三者

②、債務者の委託を受けて、債権者が委託のことを知っていた時

 

①の正当な利益を有する場合というのは、債務者の意思に反する場合と同様です。利害関係があるので、債権者が嫌がったのかもしれませんが、この場合は弁済が可能です。

 

②は債務者の委託を受けていて、債権者が委託のことを知っている時です。この場合は正当な利益を有していない場合でも可能です。債務者から許可を得ていて、債権者にそのことを通知していれば、どんな第三者でも弁済することができるとなります。

 

 

その他の第三者が弁済できない場合

474条の4項では、債務の性質や当事者の禁止・制限によって第三者が弁済できなくなる場合を規定しています。

 

債務の性質というのは、例えば、金銭の債務であれば第三者が弁済しても問題ありませんが、例えば、100万円で著名な人物のコンサートを呼ぶ契約を結んでいた時に、コンサートにでれなくなったからといって、第三者が代わりにコンサートにでるということはできません。

 

一度その契約をなくすか、契約不履行で損害賠償になることもあります。もちろん当事者間で別の人がコンサートにでることを許可した場合はこの限りではありませんが、第三者が弁済するというパターンには当てはまりません。

 

もう一つは、当事者が禁止してしまう場合です。例えば、いじめの被害者が起こした裁判で、見事に損害賠償請求が認められて、弁済が始まったとします。この場合の損害賠償は、加害者に支払ってもらうことに意味があると被害者が考えれば、第三者が弁済することを禁止することもあります。お金よりも反省してほしいという思いや、罰であるという思いが強ければ十分にありえる事例です。

 

 

まとめ

第三者が弁済することについての基本原則が474条に記されていました。基本原則として、第三者が弁済することはできます。

しかし、債務者の意思に反する場合は第三者の弁済はできません。ですが、債務者の意思に反する場合でも

 

①、正当な利益を有する者が弁済した時

②、債権者が債務者の意思に反していることを知らなかった時

は弁済することができます。

また、債権者の意思に反する場合も第三者の弁済できませんが

 

①、正当な利益を有する時

②、債務者の委託を受けて、債権者が委託のことを知っていた時

は弁済することができます。

 





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