今回の改正で、詐害行為に関する内容は大幅に増えましたが425条の2と3では、詐害行為として取消された後の、受益者の権利について書かれていました。
受益者からさらに、贈与などを受けた人で、債権者を害する行為だと知っている人を転得者と言いました。この転得者にも受益者同様の不利益が起こることが考えられるため、転得者にも同様の権利があるのでしょうか。
解説していきたいと思います。
425条の4の条文
(詐害行為取消請求を受けた転得者の権利)
第425条の4
債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
一 第425条の2に規定する行為が取り消された場合:その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権
二 前条に規定する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。):その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権
425条の4は、転得者の権利について、受益者の権利について書かれてあった425条の2と3に対応しています。
転得者にも受益者と同じような権利があるということです。それでは、権利の中身について解説していきます。
転得者の権利とは
詐害行為というのは、債務者がお金を返すことができないのにも関わらず、財産を隠したり、減らす目的で、誰かにあげてしまうことでした。このような詐害行為の利益を直接受けた人を受益者、受益者からさらに贈与された人を転得者と言いました。
ただし、受益者や転得者に対する贈与などを取消できるのは、この行為が債権者を害すると知っていた時(悪意がある)だけです。全く知らない転得者には詐害行為の取消はできません。
このように、条件付きで受益者や転得者に金銭や動産が渡された場合、
取消すことができるのが詐害行為取消請求でしたが、受益者や転得者が一方的に損をする場合は保護をする必要があります。(受益者の権利は425条の2と3)
しかし、転得者の場合は、受益者と異なり間に、債務者と直接やり取りをしているわけではなく、受益者が入ってくるため複雑になっています。
条文では次の二つの場合が想定されています。
①「財産の処分に関する行為」(受益者の権利425条の2が対応)
②「債務の消滅に関する行為」(受益者の権利425条の3が対応)
ポイントは、転得者と受益者間ではなく、受益者と債務者間のやり取りが注目される点です。
財産の処分に関する行為での転得者の権利
425条の2に対応している財産の処分に関する行為というのは、例えば、債務者が財産を隠す目的で500万円の宝石を5万円で受益者に売ったとします。明らかに不当に安く売っているためこれは、詐害行為にあたると認定されました。
しかし、受益者は既に転得者に5万円で売却していました。受益者と転得者の行為も詐害行為と認められ、転得者が持つ宝石が債権者に直接引き渡されました。
この時、転得者は5万円損することになります。この転得者が支払った5万円を反対給付と言いました。
受益者の場合は、債務者に直接5万円の支払いを請求することができますが、転得者の場合はどうなるのでしょうか。
一 第425条の2に規定する行為が取り消された場合:その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権
転得者のできる権利は、条文によるとなんと受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権か、その価額の償還請求権を使うことができます。
今回の場合では、5万円分が、受益者が債務者に請求することができる権利なので、これを利用することができます。
ポイントは、受益者と債務者の間のやり取りが請求できるという考え方です。
そのため、もしも受益者の反対給付の金額と転得者の反対給付の価格が違うときはどのようになるのでしょうか。
例えば、500万円の宝石を債務者は受益者に50万円で売却し、受益者はさらにそれを5万円で転得者に売却したとします。(なぜ受益者がそんなことをしたのかわかりません)
この行為が詐害行為と認められ転得者は、債権者に宝石を引き渡したため5万円損することになりました。
もし、受益者が債務者に請求することができる場合、転得者は50万円の請求ができることになってしまいます。
これは流石におかしなことなので、次のようなただし書きがあります。
ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
「消滅した債権の価額を限度」としているので、受益者から債務者には50万円の請求権ですが、転得者は5万円しか請求できないことになります。
これで、転得者は損をすることがなくなりました。
もし、価額が逆の場合はどうなるのでしょうか。つまり、500万円の宝石を受益者が5万円で購入し、受益者が転得者に50万円で売却したとします。
転得者は50万円損をすることになりますが、受益者は債務者に請求できる権利は、5万円しかないので、なんと5万円しか請求できません。45万円の損をしてしまいます。
このような場合に、転得者が受益者に請求することができるのかどうかは、今後の判例を待つ必要がありそうです。
債務の消滅に関する行為での転得者の権利
債務の消滅に関する行為での受益者の権利は425条の3に書かれていました。債務の消滅に関する行為というのは、代表的なものが複数の債権者がいた場合の抜け駆け行為などがありました。
この場合でも同様に、受益者と債務者の間の関係が大切になります。
二 前条に規定する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。):その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権
転得者の場合も、受益者が債務者に対する債権が復活するはずものをそのまま転得者が使うことができ、転得者が債権を行使することができます。
例としては、債権を転売していった場合などが挙げられます。
まとめ
詐害行為として取消された後の転得者の権利は、受益者と同様にあります。しかし、転得者の権利は、受益者が債務者に対して行使できる権利がそのまま使えるというもので、転得者と受益者の間のやり取りが債務者に請求できるわけではないので、注意が必要です。
そのため、受益者と債務者間のやり取りと、受益者と転得者間のやり取りでの金額が異なる場合は、受益者と転得者間でのやり取りの金額が上限となります。
しかし、転得者は受益者と債務者間で請求できる権利しか行使できないため、転得者が損をする場合もあるかもしれません。