私たちの身の回りにある「詐欺行為」、詐欺をすると詐欺罪という刑法に該当して捕まってしまうのは知っているかもしれません。しかし、実は民法でも詐欺行為によって行われた意思表示は取り消すことができるのです。
2020年4月1日に施行された改正民法の詐欺行為の変更ポイントについて分かりやすく解説します。
民法の意思表示とは何か
意思表示というのは、一定の法律効果の発生を欲する意思を外部に表示する行為です。
非常に難しい言い回しですが、簡単にいえば、AさんはBさんのものが買いたい時に「それを買いたい」と言います。Bさんはそれを売ってもいいと思ったら「売りたい」と言います。
この「買いたい」と「売りたい」が意思表示です。
上の図ではAはりんごを「買いたい」と思っています。そしてBはりんごを売りたいと思っています。この場合、「売買契約」という契約が成り立ちます。契約が成り立つとその法律効果として、Aは代金の支払いとりんごを獲得する権利を、Bはりんごを渡して代金を請求する権利をもらえます。
詐欺行為の時は意思表示をなぜ取り消せるの?
詐欺または強迫の意思表示は民法96条によって取り消すことが出来ます。
民法96条
1,詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2,相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3,前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
もし私たちが意思表示をして契約した時に、相手が欺こうとしていたらどうでしょうか。
私たちが一方的に損をしてしまいますよね。この場合、意思表示を取り消すことで私たちが対抗できるようになっています。
詐欺の要件は?
詐欺とは民法においてどのような場合なのでしょうか。詐欺の要件をあげていきます。
- 相手方を欺き、かつ欺くことによって相手方に一定の意思表示をさせようとする意思があること
- 欺罔行為(故意に事実を隠蔽し、または虚偽の表示をすること)があること
- 騙された者が、欺罔行為によって錯誤[1]となり、その錯誤によって騙した者の臨んだ意思表示をすること
例えば、ある有名な画家の絵があったとします。それのコピーをBさんは本物の有名な画家の絵だといって売ろうとします。これが①の欺き相手に買うという意思表示をさせようと②の欺罔行為をしている状態です。
その後、Aさんがこれを本物の画家の絵だと錯誤し、買うと行ってしまうことこれが③を表しています。このような場合には詐欺行為にあたり民法96条の第1項で意思表示の取り消しが出来ます。
今回の改正のポイントは?
民法96条の改正は太字で示した部分が変更しています。
96条第2項は第三者が詐欺を行った場合です。騙されて物を別の人に売ってしまった場合や、騙されて物を買ってしまった場合もあることでしょう。旧来はこのような場合に取り消しが可能でした
これは例えば、Aさんが持っている土地を売らせようとCが近づいて、詐欺をしている場合です。Cは直接買うのではなく、Bに買わせました。
この場合BはCのことを知っているので、要するにグルであったわけです。このような場合には詐欺を取り消すことができました。
新しい民法では、この場合に加えて、Bが知ることができた場合にも追加されました。
例えば、Bが善意であっても過失があるのであれば、意思表示が取り消せることになったのです。つまり詐欺の事実を知ることができたにも関わらず知らない場合というのは、Aさんの利益を損なうと考えられたわけです。
変更ポイントその2、詐欺をした相手が物を売ってしまった場合
詐欺をした相手に物を売ってしまいました。もちろん詐欺なので意思表示を取り消し、契約を解除することができます。しかし、詐欺をした相手は既に別の人に物を売ってしまったと言います。
この場合は取り返せるのでしょうか?
こちらも法律が変更したので、解説していきます。
Bさんが詐欺行為をしたとします。Bさんが持っていた物をCさんが買ってしまいました。
この場合Cさんが詐欺行為を知っていたかどうかがポイントになります。
旧来の法律では、詐欺行為をしって買った場合、つまり悪意があった場合については、意思表示の取り消しが対抗可能でした。しかし、今回の法改正で、Cさんが詐欺行為について知ることができる立場にあった、つまり過失がある場合にも、意思表示の取り消しが対抗可能になりました。
まとめ
様々な契約は、民法によって制度化されています。その際に大切となるのが、意思表示です。しかし、詐欺行為はその意思表示を歪めて不当に利益を損なわせるものです。
そのため、詐欺行為についての意思表示は取り消すことが出来ますが、第三者が介入してくる場合、従来はその第三者に悪意があった場合のみ(詐欺を知っていた時)、取り消しが可能でしたが、今回の改正では詐欺行為を知らなくても知ることができた(過失がある)場合にも適用となり、範囲が広がりました。
詐欺にあった場合には、従来よりも対応がしやすくなったと言えるでしょう。
[1] 錯誤とは、例えば本物の真珠ですと思わせるような意思表示を受けて、模造品の真珠を買った場合など、表示と真意が不一致している場合のこと
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