民法改正で保証人の項目が追加されていきました。具体的には、公正証書の作成義務が追加され、保証人に配慮がされるようになりました。しかしそれは全ての保証人に対してでは、ありません。今回は、465条の6から8の例外について解説していきます。
465条の9の条文
(公正証書の作成と保証の効力に関する規定の適用除外)
第465条の9
前三条の規定は、保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については、適用しない。
一 主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者
二 主たる債務者が法人である場合の次に掲げる者
イ 主たる債務者の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除く。以下この号において同じ。)の過半数を有する者
ロ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ハ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ニ 株式会社以外の法人が主たる債務者である場合におけるイ、ロ又はハに掲げる者に準ずる者
三 主たる債務者(法人であるものを除く。以下この号において同じ。)と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者
465条の9は465条の6~8の対象外について明らかにしています。この条文も新設された条文です。どのような場合が対象外となるのでしょうか。
民法465条の6から8
民法465条の6から8ではいずれも、個人の保証人の時の、事業に関わる債務の保証人となる場合について定めてありました。
456条の6では、このような条件の保証人の場合に、公正証書の作成が義務付けられ、公正証書の作成方法が明文化されました。
465条の7では、保証人が、口きけない時や耳が聞こえない時といった、特別な条件の場合についての公正証書の作成方法が明文化されていました。
465条の8では、保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約の場合も公正証書を作らないといけないと明文化されました。
第465条の8
1 第465条の6第1項及び第2項並びに前条の規定は、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約について準用する。主たる債務の範囲にその求償権に係る債務が含まれる根保証契約も、同様とする。
2 前項の規定は、保証人になろうとする者が法人である場合には、適用しない。
465条の8にある「保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約」とは次のようなものです。
通常の保証人の場合は、債権者、債務者、保証人しかいませんが、債権者が銀行、債務者が個人、保証人が消費者金融などの法人の場合には、保証人(消費者金融)がもつ債務者に対する求償権の保証人という4番目の人物が現れることがあります。
保証人を消費者金融にせずに、保証人の求償権の保証人を通常の保証人とすれば良いのですが、債権者の信頼度の問題からか、このような場合になることがあります。
債権者からすると、万が一債務者が破産をしたとしても、個人の保証人よりは消費者金融のような法人が保証人になってくれた方が、確実に返済されるため安心ができ、融資がされやすくなります。
このような場合の個人の保証人の求償権の保証人も、保証人と同じくリスクが高いため公正証書による保証契約が必要になりました。
対象外の条件
465条の6~8では、個人の保証人を対象としており、法人の保証人は対象外と明文化されていました。465条の9では、個人であっても対象外となる場合について3つ定めています。
①債務者が法人の時の保証人が、理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者の場合
②債務者が法人の時の保証人が、議決権の過半数を有する人の場合
③債務者が個人の時の保証人が、共同して事業を行う人の場合
保証人が個人であっても、お金を借りる会社の経営者に近い立場にある人は、一連托生の関係にありますし、そもそも事業に口を出せる立場にあるので、保護の例外となっています。
また、お金を借りるのが個人であっても、一緒に事業を行う個人の保証人は、同様に事業に口を出せるため例外となっています。
理事、取締役、執行役
公正証書の作成を義務付ける理由は、個人の保証人がリスクをしっかりと把握する必要があるためでした。この考えに基づくと、法人の理事や取締役、執行役はいわゆる会社の経営者にあたる立場なため、リスクは十分に理解しているだろうという前提になっています。
法人というのは、会社などの営利法人だけではなくNPO法人や社団法人などの非営利活動をしている法人格をもつ全ての法人が含まれます。
ボランティア団体から法人格を得てNPO法人になったような小規模な法人での理事がどれほどリスクを把握しているかは、不明ですが、法人の経営者に近い立場の人は保証人であっても、公正証書を作る必要はありません。
H2 議決権の過半数をもつ個人とは
株式会社における株主について例外としているのが、465条の9の2です。
(イ)では、株主の中でも、総株主の議決権の半分をもつ個人です。株式会社で議決権の半分を持っていれば実質的にその会社の経営権はその個人にあるも同義です。リスクを今さら説明するような必要はないということでしょう。
(ロ)では、株主の議決権の半分を持つのが別の法人で、その法人の株主の議決権を半分以上もつ個人が保証人の場合です。いわゆる会社が別の会社に買収された時に、買収先の経営者が保証人となっているという場合を想定しています。
このような場合でも、十分にリスクを把握しているだろうと考えられます。
(ハ)では、完全に過半数を持っているわけではないけども、例えば、債務者となる法人Aの株をBという会社が3割、Cという個人が3割もつとして、CはBの株を6割持っているという場合です。BとCを足すと6割になるため、実質過半数を持っていることになります。
共同して事業を行うものとは
借りる人物が個人で保証人も個人の時は、共同して事業を行うものか、事業に現に従事する配偶者の時のみ、公正証書を作る必要はありません。
「共同して事業を行う者」とは、業務執行権限や代表権限、業務執行に対する監督権限など、事業遂行に関与する権利を有している人物のことを言います。
個人が行うような小さい事業のビジネスパートナーを指していると考えられます。
事業に現に従事する配偶者とは、家族経営のような自営業の場合で夫婦で事業を行う場合も想定しています。
最も債権者側からすると、共同して事業を行う者や現に従事する配偶者なのかを証明するのは、難しいといえます。そのため、公正証書は今後、作成しておいた方がリスクは少ないといえるでしょう。
まとめ
465条の6~8では、個人の保証人を保護するために、保証人となるリスクをしっかりと把握させる目的で、公正証書を作らせることを義務付けました。
しかし、465条の9では例外があることを示しています。経営者やそれに準じる人物はリスクを理解しているだろうという考えから、取締役、理事、執行役、株主で議決権を半分以上もつ個人などは除外されています。
債権者側が保証人に保証してもらえないリスクを考えると例外の場合でも今後は、公正証書を作るのがスタンダードになるかもしれません。