遺言執行者の条文で大きく変わったのは、1015条である、「遺言執行者は相続人の代理人とみなす」という規定が消えたことだと思います。
遺言執行者に係る条文参照 第1007条~1016条
第1007条
1.遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2.遺言執行者は、その任務を開始した時は、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
第1008条
相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。
第1009条
未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。
第1010条
遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
第1011条
1. 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2.遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
第1012条.
1. 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2. 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる。
3. 第644条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。
第1013条
1. 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2. 前項の規定に違反してした行為は無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗する事はできない。
3. 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
第1014条
1. 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2. 遺産の分割の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言があった時ときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の二代一項に規定する対抗要件を備えるための必要な行為をすることができる。
3. 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同行に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払い戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申し入れをすることができる。ただし、解約の申し入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4. 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思表示に従う。
ポイント
第1015条改正前条文
遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
第1015条
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接効力を有する。
第1016条
1.遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。ただし、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。2.遺言執行者が前項ただし書の規定により第三者にその任務を行わせる場合には、相続人に対して、105条に規定する責任を負う。
遺言執行者の権限の明確化
改正の狙いとして、遺言執行者が定められている場合の遺言執行者の職務をより明確化する事により相続人の権利を平等に守る役割を担うことができます。また相続人などが遺言執行者の行為を妨げてはならないという事を合わせて明文化しています。
今回の民法改正・変更点の要点
- 遺言執行者は相続開始の通知義務を負う
- 遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる
- 遺言執行者が凍結口座の解約手続きを進める事ができる
- 遺言執行者が、土地建物不動産の名義変更を進める事ができる。
問題点
上記の変更点で疑問に感じる事があります。
遺言執行者が司法書士のような有資格者でなかった場合に、不動産の所有権移転登記が代理で出来るのか?ということが疑問になります。また有資格者でない遺言執行者が、銀行の凍結口座の解約を進める際、戸籍謄本を集める手段が準備されているのか?そうでなければ非常に煩雑な事務を遺言執行者は行わなければならなくなります。
果たして、そのような実務に照らした諸問題をどうクリアしていくか注視が必要だと感じます。また、1015条の代理人規定がなくなっています。
私にはまだどのように解釈すれば良いかわかりませんので、今後どのように運用されていくか合わせて注視したいと思います。
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