配偶者が居住建物を取得する場合には、法定相続分がそれだけでいっぱいとなってしまい、他の現金などの財産を受け取れなくなってしまう場合があります。
そこで、配偶者居住権という新しい権利を創設する事によって、建物の所有権はほかの相続人が取得して、配偶者は建物以外の財産を相続しつつ、居住する権利も確保する事で、配偶者の財産と居住をしっかり確保するような相続も可能となります。
第1028条 ~1036条 参照条文
全て追加されました。
第1028条(配偶者居住権)
- 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。 - 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
- 第903条第4項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。
第1029条(審判による配偶者居住権の取得)
- 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く)
第1030条(配偶者居住権の存続期間)
- 配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。
第1031条(配偶者居住権の登記等)
- 居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。
- 第605条の規定は配偶者居住権について、第605条の4の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。
第1032条(配偶者による使用及び収益)
- 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
- 配偶者居住権は、譲渡することができない。
- 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
- 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。
第1033条(居住建物の修繕等)
- 配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
- 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。
- 居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。
第1034条(居住建物の費用の負担)
- 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。
- 第583条第2項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
第1035条(居住建物の返還等)
- 配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
- 第599条第1項及び第2項並びに第621条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相者居住権を取得したとき、又は第891条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。
一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日
二 前号に掲げる場合以外の場合第3項の申入れの日から6箇月を経過する日 - 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
- 居住建物取得者は、第1項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。
第1036条(使用貸借及び賃貸借の規定の準用)
- 第597条第1項及び第3項、第600条、第613条並びに第616条の2の規定は、配偶者居住権について準用する。
配偶者居住権が成立する3つの要因
- 遺産分割
- 遺贈
- 家庭裁判所の審判
これはあくまで相続が発生した時に配偶者の権利を保護する目的に創設されたものですから、上記以外で配偶者居住権を主張する事は出来ないということになります。
配偶者居住権の要点まとめ
それでは今回の「配偶者居住権」についての要点をまとめてみましょう。
【どのような権利なのか?】
・被相続人の配偶者がそれまで被相続人とともに居住していた建物を相続しなくてもそのまま住み続ける事を可能とした新たな権利です。
【不動産を相続するよりはるかにお得】
・配偶者居住権にも価額としての価値があるが、所有権ほどの価値がないため、今までは建物を相続した時点で法定相続分がいっぱいになってしまって、その他の現金等を相続する事が出来ない場合があったが、配偶者居住権を新設する事で、居住を失わずに、現金等の財産を相続する事が出来るようになった。
【所有者の義務】
・所有者は配偶者居住権の登記をする義務が生じます。また配偶者は所有者に登記を請求する事が出来ます。
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