債権には預金債権や貯金債権と呼ばれるものがあります。466条では債権の譲渡についての基本ルールを定めていましたが、ここでは、特殊な債権の譲渡とそれを制限する意思表示ができるのかについて解説していきたいと思います。
466条の5の条文
【改正後民法】
(預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力)
第466条の5
1 預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は、第466条第2項の規定にかかわらず、その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。
2 前項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。
預金債権と貯金債権の2つを合わせて預貯金債権と言いますが、この条文では預貯金債権の時の債権譲渡について明文化されています。
預貯金債権とは
金融機関にお金を預けた時に、預けた人を預金者や貯金者と言います。預金者や貯金者は、金融機関に対して、預貯金を返してということができる債権を持っています。
これを「預貯金債権」と言います。
預貯金債権は譲渡を制限できる?
通常の債権では、債権の譲渡を制限することができませんでした。代わりに債務者が反対の意思表示を伝えれば債務の履行を譲渡先にしなくても良いというのが基本ルールです。
それに対して、預貯金債権の場合は、譲渡そのものを制限することができます。詳しく解説すると、債務者が譲渡の制限の意思表示を譲渡人が知っている場合や、重大な過失により知らなかった場合は、譲渡そのものを制限することができます。
これは、基本ルールである466条の2項に示される、債務者の意思表示に物理的拘束力はないという考えの例外となります。
第466条
2 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
預貯金債権だけなぜ制限できるのか
実際に銀行に入っているお金(預貯金)を勝手に他の人が引き出せるようにするというのはおかしな話です。
例えば、Aさんが銀行に入っているお金を「引き出せる権利を譲渡するよ」と言われても相手方は困ってしまいますし、銀行側も詐欺かどうかがわからないので、引き出せるようにするのは困難です。
そもそも、相手方からしたら、銀行から引き出してもらって、直接贈与してくれればいいだけなので、わざわざ銀行に入っている預貯金債権を譲渡してもらう必要はありません。
銀行にも規定にも「この預金(貯金)、預金(貯金)契約上の地位その他この取引に係る一切の権利及び通帳は、譲渡、質入れその他第三者の権利を設定すること又は第三者に利用させることはできません。」と書いてあります。
差押えは可能
預貯金債権の差押えは可能というのが、466条の5の2項になります。金融機関に預けられたお金が、強制執行によって差押えされるのはよくあることです。銀行側は強制執行された債権に対して、支払いを拒むことはできません。
まとめ
基本ルールとして、債権の譲渡は制限することはできません。しかし、預貯金債権に関しては、金融機関という特性上、債権の譲渡そのものを制限することができます。
多くの銀行では、債権の譲渡そのものを制限する注意事項が定められており、預貯金債権を他の人にはあげることができません。しかし、強制執行による差押えは有効で、よく起こる現象になります。