法改正

【履行不能とは?】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(第412条の2)

履行不能 法改正 民法 2020 概要

412条の2は新しく新設された条文です。債務を履行するというのは、例えば、宝石を買ったとすると、金銭を支払って、宝石をもらう権利をもつことになります。お金は払ったが、宝石がもらえないと困ることになります。このような場合、債務(宝石を渡す)ことを履行するように、要求することができます。

 

しかし、宝石が海の底に沈んでしまったら渡すことができません。このような履行が不能になっときについて、解説していきます。

 

412条の2の条文

第412条の2

1 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない

2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

412条の2は簡単に言えば、履行不能である場合は、債務の履行を請求できませんよ。ただし、契約時に既に履行不能で、履行されなかったことによって起こった損害は損害賠償請求することもできます、と書いてあります。

 

確かに、履行ができない状態なのですから、請求はできませんし、契約時に既に履行不能ということは、騙されたに近いわけですからそれにより損害をうけたら賠償請求ができるのも当然な気がします。

 

では履行不能とはどのような状態なのでしょうか。

 

履行不能とはどのような状態?

履行不能とは債務が履行できない状態(履行しようがない状態)ですが、お金がないから払えないという状態ではありません。もちろん、今は病気だから払うことができないという場合も違います。

このような、お金がないから払えないなどは、履行遅滞と言います。

 

履行不能は、履行しようがない時ですが、①物理的不能、②社会的不能、③法律的不能の3つのパターンが考えられています。

 

物理的不能とは、例えば、東日本大震災の前に売るはずであったマンションが、津波で流されてしまったというような場合があります。津波や地震といった災害は本人の責任があるとは全く言えませんが、しかしマンションを渡すという履行することは不可能です。

 

社会的不能とは、例えば、船が沈没して売るはずであった宝石などの価値あるものが沈んでしまったので売ることができないというような場合です。これも、本人が船を沈めたわけではないので、本人に責任があるとは言えませんが、海の底にある宝石を探すのは限りなく不可能に近いです。(もちろん技術が発達し、発見が容易になった場合は別です)

 

法律的不能とは、例えば、1つの家を2人の人に売ってしまったという場合もあります。片方の買った人が既に手続きを始めてしまったなどして、もう1人の人は家を買うことができないという事態が発生します。確かに、誤って2人の人に売ってしまえば、当然片方が履行されないことは当然になります。

 

 

このような、物理的、社会的、法律的に不能である場合は、履行してくださいと請求することができません。

今回の改正で、履行不能かどうかは、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という基準が明文化されたので、今後は判断される際に、①~③のパターンというのが、発生原因や社会通念に照らして、履行不能かどうかが判断されることになります。

 

つまり、個々の契約の中身によって変わるということもあるということですね。例えば、宝石の購入であった場合、〇カラットのダイヤモンドを購入したのか、特別な名前がついている世界に1つしかないダイヤモンドを購入したのかで、変わることが考えられます。

〇カラットのダイヤモンドであれば、同じダイヤモンドを代わりに売ることも十分に考えられるからです。

 

412条の2の2項の損害賠償請求はどのように行われるのか

412条の2には、「債務の履行がその契約の成立の時に不能」であった場合には、損害賠償請求をすることができるとあります。つまり、契約をした時には履行が可能であったが、その後地震などの震災で、履行不能になった場合には除かれるということです。

 

契約をした時点で、もう既に債務の履行が不能だったときのことは、原始的不能と言います。逆に、契約後に債務が履行不能になったことを、後発的不能と言います。

原始的不能

契約時点で債務の履行不能

後発的不能

契約後に、債務が履行不能になった

原始的不能の場合、改正前では契約は無効または不成立と考えられていました。過失があって無効な契約をしてしまったということは、相手方がそれを信じてしまったことに対して、損害を払わないといけません。無権代理人などの考え方と同じです。

 

しかし、今回の改正で、契約自体は無効ではない、つまり契約は成立するが、履行の請求はできないので、損害賠償請求ができると変更されました。

 

契約自体は成立できているという点がポイントですね。

 

まとめ

・履行不能に当たった場合は、履行を請求することはできません。しかし、契約時に既に履行不能であった場合は、損害賠償請求することができます。

・履行不能は、履行しようがない状態で、物理的不能、社会的不能、法律的不能の3種類が考えられます。

 





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