法改正

【表見代理】民法改正2020年4月1日施行の基本と要所の解説(民法109条110条112条)

無権代理という言葉があります。これは、契約行為の代理人としての力がないのに代理人振りをしている人の事です。このような無権代理人に騙されてしまい、取引をしてしまった場合、取引をしてしまった相手方は損をすることになります。このような場合に相手方を保護する考え方が、表見代理です。

 

表見代理とは

表見代理というのは、無権代理人と取引した相手方を保護する場合の考え方です。

先に無権代理についてまとめると、そもそも代理権を持たないか、あるいは与えられた代理権の範囲外にもかかわらず、代理人であるとして行われた行為を指します。

 

 

例えば、本人が所有する不動産を、代理権を持たないAが無断で売却すると、それは無権代理行為に当たります。

この無権代理行為が行われた場合、その効果は本人に帰属しません(原則)

 

本人というのは代理人を立てた人になります。無権代理人が勝手にやったので、本人に効果が帰属するのはおかしいですよね。しかし、表意代理は無権代理人と取引した人を守る、つまり、本人に責任が追及できるという例外になります。

 

 

表意代理は、取引した相手方からみたら、代理権をもっているように見える、それに代理権をもつと信頼に値する何かがある時に、見かけ上は代理だったとして、取引した相手方を保護します。

 

とてつもなく乱暴に言うと、本当は無権代理なんだけど、代理権があるっぽい見た目だったので、そんな状態を作った本人に責任を負わせるということです。このような表見代理が従来109条、110条、112条の3パターンで示されていましたが、この3パターンが重なる場合(重畳適用)に関して追加されたのが今回の改正ポイントになります。

 

表見代理3姉妹とイメージするとわかりやすいかもしれません。

  • 代理権授与の表示による表見代理(民法109条)
  • 権限外の行為の表見代理(民法110条)
  • 代理権消滅後の表見代理(民法112条)

 

民法109条第1項と民法110条

民法109条と110条は表見代理と認められる2つのパターンについて明文化されています。今回は109条に第2項が追加され、109条と110条の重なった場合についてどうするのかが明らかになりました。

 

それでは、109条と110条をまず解説していきます。

 

第109条

1 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

 

第110条

前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

条文だけ見ると非常に、難しいですが、絵にすると上のようになります。

 

109条は簡単に言えば、取引先にAさんがCさんに代理権をあげたよといったにも関わらず、Cさんは代理権を持っていない場合です。

この際に、Bさんが代理権を持っていないことを知らないし知ることもできない場合は、表見代理とみなして、Aに責任を追及することが出来ます。ただし、これは表示された代理権内の話です。代理権外になるとまた変わってきます。

 

つまり、109条は実際に代理権を与えていないのに、「Cに代理権を持たせたよ」とお知らせをしてしまっていたら、なんと、代理人が無権代理行為をしてしまったというものです。

本人Aもうかつですが、代理権が本当はないのに代理人として振る舞ったCにも問題がありますね。

 

実際に民法109条が使われた例として、裁判所が裁判所を裁くという面白い事例があります。

 

 

【東京地方裁判所厚生部事件】最高裁昭和35年10月21日第二小法廷判決

 東京地方裁判所厚生部は、要するに、戦時中から同裁判所職員の福利厚生をはかるため、生活物資の購入配給活動をつづけて来た一種の組織体であって、いわば自然発生的に一般に「厚生部」と呼ばれるようになつたものであり、その運営も専ら同裁判所の職員によってなされて来たものである・・・

 

・・・東京地方裁判所当局が、「厚生部」の事業の継続処理を認めた以上、これにより、東京地方裁判所は、「厚生部」のする取引が自己の取引なるかの如く見える外形を作り出したものと認めるべきであり、若し、「厚生部」の取引の相手方である上告人が善意無過失でその外形に信頼したものとすれば、同裁判所は上告人に対し本件取引につき自ら責に任ずべきものと解するのが相当である。

 

 

これは、東京地方裁判所がAさん本人にあたり、東京地方裁判所厚生部が無権代理人Cさんに当たります。この事件は非常に難しいですが、東京地方裁判所厚生部は、東京地方裁判所が持っている組織ではなく、有志の組織であり別ものだったのです。しかし、取引先のBさんにあたる人は東京地方裁判所と取引していると思っていたのです。

 

東京地方裁判所○○部とついていれば、東京地方裁判所の組織だと思うことはなんら不思議ではありません。

この場合、「代理権」という言葉が使われていなくても、本人(東京地方裁判所)が自分の名称や商号の使用を許諾したとみなされて、なんと東京地方裁判所は敗訴し、表見代理としてお金を支払うことになったのです。

 

民法110条の意味は?

民法110条では、109条が代理権の範囲内であったのに対して、代理権の範囲外の場合です。なので110条は代理権を本人はCさんに渡したが、代理権の範囲を超えて契約してしまった場合です。

 

例えば、土地を100万円以上で取引してくれと代理権を渡したのに、90万円で取引されたらAさんは困ります。これはCさんの代理権は100万円以上でないと取引できないのに、勝手に代理権外の取引をしたことになり、無権代理人となります。

このとき、取引先の第三者Bさんが、Cさんが代理権があることを、信じかつそう信じることができる正当な理由がある場合においては、Aさんに責任追及ができます。109条では、善意無過失であれば大丈夫ということは、本人AさんがBさんに過失か悪意があることを証明しないといけなかったのに対して、110条ではBさんが自分自身で代理権をもつ相手と取引したと信じる正当な理由を証明しないといけません。

 

110条の場合Aさんにそこまで責任がないため、Bさんが証明する必要があるのです。

 

改正ポイント民法109条の第2項

それでは、代理権があることを表示していたつまり109条のパターンで、110条の代理権外であった場合はどうでしょうか。その場合を規定したのが、新設の109条の第2項になります。

この場合は代理権を与えていないのにも関わらず、代理権があることを表示(先ほどの東京地方裁判所厚生部のように名前を使うことを認めている場合も含めて)して、さらに代理の表示の範囲外であった場合です。

 

表示から読み取れる代理の範囲外であり、さらに代理権も与えられていないという非常に微妙な場合です。この場合Bさんが表意代理としてAさんを責任追及できるのは、代理権を持っていないを知らないかつ知ることもできない状態であり、Cさんが代理権があることを信じる正当な理由がある場合のみです。

 

つまり109条第1項と110条を足した条件になっています。そもそも、表示されているにも関わらず、その表示範囲を超えている場合というのは、Bさんにも問題がある場合が多いため、このような適用となっています。

 

 

民法112条

112条は代理権消滅後に取引した場合です。もちろん代理権を消滅したのに、代理をしているので無権代理人となります。

今回112条には新設で第2項が追加され、110条と112条第1項が組み合わされた場合について明文化されました。

 

(代理権消滅後の表見代理等)

第112条

1 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。

2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

 

 

112条1項は代理権の消滅した場合において、消滅後にかつての代理権内で取引した場合です。例えば、代理人Cさんに土地の売却を500万円以上で頼んだとして、取引が決まり代理権が消滅したとします。しかし消滅後にCさんがうっかりBさんと550万円の売却で契約を交わしてしまった場合、代理権は消滅しているにも関わらず、かつての代理権内の取引をしています。

このような場合、Bさんは代理権が消滅したことを知らないし、知ることもできない(善意無過失)のであれば、表意代理としてAさんに責任追及ができます。

代理権が消滅した場合で、代理権の範囲内の場合は、旧民法でも明示されていました。

 

 

今回の改正で追加されたのは、112条の2項である、代理権が消滅したけど、かつての代理権の範囲外の場合です。先ほどの例でいうと、500万円以上で売るのが代理権の範囲内でしたが、490万円で売却した場合、代理権が消滅した後に代理権の範囲外での取引となります。

 

このような場合、109条2項と同じく、善意無過失に加えて、代理権があることを信じ、かつそう信じることができる正当な理由がある場合に限られます。

 

まとめ

無権代理人と取引してしまった場合に表意代理として本人に責任追及できるパターンは3パターンあります。代理権を与えてますよと表示したが、代理権を持っていない場合(民法109条)代理権を与えたけど、代理権の範囲外での行為(民法110条)、代理権消滅したのに代理権を使った行為(民法112条)の3つです。

 

さらに、109条と112条代理権の範囲内であったか範囲外であったかが、今回の改正ポイントとなります。範囲外であっても、善意無過失に加えて、信じる正当な理由があれば本人に責任追及ができることになります。

 

無権代理人と取引してしまった場合に備えてぜひ抑えておきたいところです。

 

 

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