改正民法107条 【代理権の濫用】について
民法には代理人という考え方があります。例えば、裁判の時には専門家である弁護士にお願いすることがあります。裁判というと弁護士でないとできない気がしますが、実は自分が1人でやることも可能です。しかし、専門的な知識を持たないため、専門家にお願いしているのです。今回はそんな代理人が代理権を濫用した場合はどのようになるのかについて解説していきます。
代理権とは?
代理権というのは、本人に代わって、代理人であることを告げて、本人のための意思表示を本人の代わりに行い、相手方と法律行為をすることです。
あくまで、本人のための意思表示であるため、そこで行われた法律行為は本人に帰ってきます。(効果帰属)例えば、裁判で被告人が有罪になったからといって、その弁護をしていた弁護士が有罪になるわけではありません。
弁護士は本人に代わって本人のために意思表示をしているだけなので、その結果は本人が受けるべきものです。
図にすると、上のようになります。本人Aさんの代わりに代理人Bさんが、相手方のCさんと法律行為をしています。BさんはAさんのために行い、この法律行為の結果はAさんに帰っていきます。例えば、土地の売り買いであった場合、代理人のBさんがCさんと契約を結びますが、実際にはAさんと結んだことと同じなので、Aさんは土地を渡し、Cさんは契約に基づき金銭などの支払いをすることになります。
代理権には2種類あります。1つは任意代理権であり、本人から依頼されて代理人となる場合です。弁護士はまさにこの典型的な例です。
2つ目に法定代理権というものがあります。依頼ではなく法律により代理人となる場合です。
未成年者の親権者がまさにこの例になります。法律によって未成年者の代わりに法律行為をできるのが親権者(親など)になります。
代理権の濫用の条文はどのように変化した?
第107条(代理権の濫用)
代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
第107条は旧法では規定がなかったため、新しく新設された条文になります。
簡単に言うならば、代理人が代理権の枠内で法律行為をしましたが、実際には本人のためではなく、自分や第三者の利益ために行っていた場合、本人が不利益を被ることがあります。
代理権の濫用の例
土地を持っている本人Aさんという人がいました。Aさんは土地を売る際にBさんに土地の売却を頼みます。BさんはAさんの代理人として、Cさんに土地を売る契約をしました。
しかし、代理人Bさんはお金に目がくらんだのか、売却したお金を着服してしまいました。
この場合、AさんはCさんに土地を渡さなければならないのでしょうか?Cさんからすれば、代理人Bさんとして売買契約を結び、お金も払っているのでCさんは何も悪いことはしていません。
このような場合どうなるのかを、取り決めしたのが第107条です。
上の図のように代理人Bは着服しようとしています。この時、CがBの着服を知っていた(悪意)もしくは、知ることが出来た場合(過失有り)の場合には、無権代理行為ということになりました。無効になるわけではないということに注意が必要です。また、Cが善意無過失の場合には、代理人Bが行った法律行為は有効になります。土地ばCに渡した上で、AはBを直接訴える必要があるでしょう。
無権代理とは、代理権を有していない者が勝手に代理人として振る舞っているという状態です。
無権代理行為であると認められたのであれば、本人Aさんは、追認権と追認拒絶権を持つことになります(民法第113条)
・追認権、この契約を後から認めることができる権利で、追認すればBが契約した時に遡り契約が認められます
・追認拒絶権、追認を求められても拒否することができる権利です。
追認権と追認拒絶権は、相手方のCがAにこの契約を追認するかどうか聞いてきたときに、どちらも選べるということです。
当然拒絶すれば、AはCに土地を渡すことはなくなるので、CがBに責任追及をしたり、契約自体の取り消しを行うことになります。(民法第117条)
まとめ
自分一人で何かをできない時に、誰かに頼むことは当たり前の行為です。特に専門的な知識が必要な時は「代理人」に頼むことは良くあることです。しかし、本人の思惑と代理人の思惑が異なり、トラブルとなることも多々あります。
トラブルを避け、自分の利益を守るためには、法的な知識を身につけ、代理人であれば制限をしっかり設ける、信頼できる人を選ぶなど注意が必要です。また、トラブルになった際自分での解決や自分の利益が守れなさそうな時には、弁護士に依頼することが望ましいでしょう。
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